第49話 テュールとトビー


 トビーの体調は日によってまちまちだった。

 初めの日の様な酩酊めいてい状態を見せる事は滅多めったになかった。時には普段より快活に見える日さえ有った。

 私はテュールの様子にも注意した。

 ビッツィーの目的はテュールのはずだから、彼女の体調、ビッツィー風に云えば「醸造じょうぞう具合」を把握はあくできれば、其処そこからビッツィーの計画を逆算出来るかも知れない。

 ビッツィーがテュールをきっする時、其処そこにトビーを居させてはいけない。カルベリィの人達の様に巻き添えにされる事だろう。

 以前にビッツィーは、醸造術を受けても回復はすると云ったが、トビーの様子を見ていると不安になった。彼の体は魔術の影響に耐えかねているのではないか。それに、やはり彼の頭を好きにされていると思うと嫌だった。

 しかし私にビッツィーを止める力は無い。


 私は頻繁ひんぱんに連絡を取って、トビーの状態を確認しようとした。

 だが、最近の彼はなかなか捉まらなかった。彼は時々、街から消える。そんな時、大抵テュールがやって来て、彼はアルバイトで忙しいのだ、と説明した。

 私にも仕事があったから、ずっと彼を見ている訳にもいかなかった。テュールの紹介で、古着屋の店番をしていたのだ。

 お店には客の他に、テュールの関係者だと云う大人が訪ねて来て、取り次ぎを頼まれる事があった。要件は最後まで不明だった。

 確かにテュールは謎だ。

 一体何の為のアパルトマンなのか。トモダチを集めて如何どうしたいのか。テュールに一度訊ねてみたことがある。トモダチからお金を得ている事を、彼女はあっさり認めた。

「確かに、お金の遣り取りをする事はあるわ。そう云う取引のあるオトモダチとはね」

 その上で彼女はこう続けた。

「皆が私を必要とする。私も貰えるお金はちゃんと貰う。大切なのはね、そのサイクルがちゃんと回っている時だけ、私が満足を得られる、という事。ただ貰うだけではパンクしてしまう。そしてただで物を上げる時の寂しさと云ったらないわ。でも、これは内緒よ。ノリピーが特別だから教えるんだからね。あなたは何だか他と違う気がするから」

 だが、如何どうやってお金を得ているのかは、話してもらえなかった。真逆まさか、本当に奴隷商人が絵を買いに来ている訳では無いだろう。


 る時の事だった。

 店の事で報告しようと、アパルトマンにあるテュールの部屋へ向かった。その途中でトビーの後ろ姿を見つけた。背中で分かるほど彼はやつれていた。毛並みごとしぼんで仕舞った様に見える。

 螺旋らせん階段から見ていると、彼はゆらゆら歩いて「閉じた部屋」の一つへ入って行った。

 テュールの部屋だ。


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