第47話 「閉じた部屋」


 アパルトマンで暮らすようになって、トモダチの事が前より分かって来た。

 アパルトマンの中には特別な「閉じた部屋」がある。「閉じた部屋」は一言で云うと「一見さんお断り」の部屋である。テュール以外、紹介無しだと入室させて貰えない。

 トモダチにとって、部屋を与えられるのはステータスであるらしい。

 複数のトモダチからの推薦すいせんが無くては部屋の所有は認められないからだ。特に「閉じた部屋」は審査が厳しのだと云う。

 ビッツィーも「閉じた部屋」を持つ一人だ。部屋を手に入れるためビッツィーがどういう手管てくだを使ったのかは、虚ろな目のトモダチを見れば明らかだった。ビッツィーはコミュニティを作ろうとしなかったので、私やフランソワが来客に悩まされる様な事は無かった。

 所でれは関係無いが「フランソワさんにお尻を蹴られたい」と云い出す一団が、トモダチの中に勃発、一室を得たと云う噂も聞いたので、私はフランソワを出来るだけ外出させないよう苦心した。


 「閉じた部屋」は謎である。その種類に関しては色々な噂があった。

 例えば、る部屋の中では如何いかがわしい行為が行われていると云う噂。

 違法な物を取引していると云う噂。

 政治結社が在ると云う噂。

 月に一度だけ、珍味をご馳走してもらえる部屋がある、などともささやかれた。

 変わった話では、一日中ひたすら絵を描き続ける画家の男が存在する。そして彼の描く人物画があまりにリアルで美しかったため、それの美人画を奴隷商人が高値で買いに来る程である、などと云う者も居た。

 もちろん噂であって、そんな画家に会ったという者は一人も居ないのである。そんな噂の流れるような謎の部屋がいくつも在った。


 まれにだが、アパルトマンでは病人を出す事があった。

 どこかの部屋で騒ぎが起こって、見に行くとオトモダチが運び出されていたりする。

 テュールは冷静に場を取り仕切って、倒れたトモダチを別室へ運ばせる。

 病院へ連れて行くのかと訊ねた事があるが、彼女は「大丈夫、きっと逆上のぼせただけよ」と云った。「ここのトモダチはご飯を抜いたり徹夜で遊んだりなんて当たり前なんだから」

 皆はそれで納得していたが、私はビッツィーの仕業ではないかと恐れた。

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