第39話 第二の令嬢


 服を買ったなら着替えさせなくてはならない。

 フランソワはお風呂場の猫みたいに暴れた。

「何でそんなに着替えるのが嫌なの」

「んんんんんッ」

 フランソワは更衣室の柱に噛みついて抵抗している。決して制服を脱ごうとしない。

「あの、大丈夫ですか」

 ついに店員さんが声をかけて着た。

 私は学生のノリと、ショップ店員さんが大変苦手だった。店員はアルバイトの学生さんだった。

 警察でも呼ばれたら最悪だ。とにかく撤退しようとした。

「いえ大丈夫です、すみません、すみません。フランソワ。フランソワやめて」

「んィイイイイ」

 だめだ。力が強すぎる。

「あのお」

 見かねたのか、お客の一人が助け船を出してくれた。

 それは、上品な猫型の顔立ちに、毛並みも美しい恋族こぞくの女性で、私が入店した時からずっと、店員さんと話しをしていた人だった。店員さんとは知り合いらしい。きっとお得意さんなのだろう。

「落ち着いて。その子の気が済むまで待ってあげたら。どうせ他にお客さんなんて来ないんだから」

「ひどいなテュールさん」

 店員さんが苦笑いしている。

 テュールさんと云うらしい。学生さんのようだ。衣服も持ち物も、多分高価な物だ。


 フランソワの抵抗が止んだ。

 彼女は更衣室から離れると、何故なぜかテュールさんに向かって唸って見せた。思えば、この時フランソワはテュールさんに自分と近いものを感じて敵愾心てきがいしんを持ったのだろう。

 彼女こそが、私の出会った二人目の令嬢、テュールだった。貿易商の親を持つ、恋族こぞくの学生令嬢。テュール。

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