第38話 港町コルベ


 ホテルを出てから、ロビーでもう一度新聞をチェックしてみた。やはり私たちの事は報道されていない。

 フランソワが居るからかも知れない、と私たちは考えていた。警察やドイルさんはフランソワが人質に取られたと考え、指名手配のような手段を控えているのではないだろうか。


 買い物袋を抱えて歩いてみれば、街では色々な店に出会えた。

 魚、肉、果物、輸入雑貨、古着、貴金属、骨董品、漢方薬。港が近いからだろう、多種多様な物が売買されている。

 私たちは卵のお菓子を買って食べ歩きした。

「私も働いたりした方が良いのかな」

 働いている人たちを見ると焦りが生まれた。この買い物だってビッツィーに貰ったお金でしているのだ。元はといえば盗んだお金だけど。

 更にお店の人に「学生さん」などと云われる。勿論私はもう学生でもない。ビッツィーは部屋で頑張っているのに、何もしないで居ると云うのは、辛かった。逃亡生活に対する不安感も、案外この何もしていない状況から生まれるのかも知れなかった。

 こう思案している側で、フランソワは通りすがりの学生カップルのお尻に卵を投げつけている。フランソワは本当にカップルが嫌い。


 しかしこのコルベの街は若者が多い。人種も多様だ。サピエンス以外の人達と擦れ違う時には、少し緊張した。

 類人猿サピエンスに耳と尻尾をつけただけの様な人もあれば、前傾姿勢で歩く獣面じゅうめんの人、ヨロイのようなからまとった水棲すいせい人種も居る。

 私にはすべて獣人、もとい恋族こぞくに見えたが、中にはビッツィーの云うエルフだとかドワーフ族も交じっているに違いなかった。

 どうやら大半は学生である。

「学生街か……何だか肩身狭いな。フランソワ、一緒に歩こう」

「アイ」

 皆が学生特有の雰囲気を発散させて闊歩かっぽしている、様に見えたのは、進学を諦めた私のひがみだろうか。

 フランソワも彼らが気に食わない様子だった。

「フランソワ。卵投げるのは止めようね」

 恋族の人たちの体格は様々である。

 そのためだろう衣服も種類が多かった。人種ごとに店舗を分けてあったりする。

 そこで思い出した。フランソワの制服姿は、かなり目立っている。報道されていないとはいえ、警察のあいだでは手配が回っているに違いない。

 予算のこともあるし古着屋へ寄ろうと決めた。

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