第37話 お酒は大人になってから


「顔ぐらいは隠しておいた方が良いんじゃないかなあ」

「気にしすぎよ。サピエンスなんて山ほどいるんだから。その玉虫色の髪だけ隠しとけば良いわよ」

「ホントに」

「かの有名な怪盗スネーク=パンチは魔術式を駆使して、世界中を荒し回ったけど、結局逃げ切ったわ。警察が居場所を特例した時はすでにお墓の中。彼は老衰で亡くなるまでに、五回も結婚をしたし、大学で教鞭を振るったり、馬の騎手になって記録を残したりもした。それでも捕まる事なく、面白おかしく暮らしたってわけ」

「そんなルパンみたいな人と比べられても……」

「楽しくない逃亡生活なんて、捕まってるのと同じよ。そんなに心配なら、外で調査でもしてくれば。あと新鮮なお魚とか買って来て。晩酌用に」

 とりあえず、日用品の買い出しは必須だった。

 けれどビッツィーには自分の仕事がある。雑用は私がやるべきだった。

 フランソワも着いて来る積もりのようだった。留守番を頼んでも、お尻にビンタを入れて来て聞かない。ビッツィーの仕事の邪魔になるよりはと、一緒に出かける事にした。

「騒ぎは起こさないでね。ティーカップ投げたりとか」

「ウィ」

「友達できたら紹介してねえ。ああ、そうそう――フランソワ、お出かけ前のチューは?」

 出掛けにビッツィーが呼び止めた。胸元からストローを取り出している。

「アイ」

 フランソワは喜んで頭を差し出した。

「良い子」

「あぁ~」

「ンッ。やっぱりフランソワは素晴らしいわ。悪徳の深みが違う」

 ビッツィーはストローを挿しこんでフランソワをきっしている。

 私はそっと顔を背けた。

 ビッツィーが大人しくすると宣言した時、私は密かに安堵した。しばらくは、醸造じょうぞう術の犠牲を出さずに済むのだ。この趣味に関して、私はまだビッツィーを理解出来ないでいた。

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