第33話 恋族


 建物の二階にあるカフェから、新しい街を観察した。

 建築物は四階建て程度までがほとんどだった。

 道路は広いが自動車は一台も通っていない。代わりに路面電車がたくさん走っていた。

 住んでいるのは若い人が多いようだった。


 何より驚いたのは、見た事もない人種が居る事である。

 動物の耳や尻尾のある人。顔にまで立派な毛並みで覆われている人、完全に動物の頭部をもった者もいた。カルベリイでは見なかった人種である。

ぞくの人達ね」

「こぞく」

「例えば虎人こじん人狼じんろう海人マーマン、みたいな動物的特徴のいちじるしい血統の事ね」

 とビッツィーは云う。

 私は物語に登場する獣人を思い浮かべた。が、それは良くない呼び片なのだとビッツィーは云う。

恋族こぞくという呼び名の由来は諸説あるけど、大体これで定着している。獣人って呼ぶと、差別になるから気をつけて。でも獣人って云うなら類人猿サピエンスだって猿から進化した猿人類だし、エルフだってウサギみたいな耳をしているのにね」

「サピエンス」

「最も繁殖力はんしょくりょくが高く、一番繁栄している人種ね。エルフは出生率が低いし、恋族こぞくは同種同士の婚姻でしか特徴を伝えられない」

 私たちの事はサピエンスとして区別しているらしい。フランソワも私もサピエンスだ。ビッツィーは、実際どうだったのだろう。見た目は私達と変わらない。

「まあ、恋族こぞくに関しては歴史的にして複雑繊細な問題があるから説明は省くわ。大抵大人しい連中だから見た目で怖がらなくても平気よ」

 ビッツィーの云う通り、街を眺めれば圧倒的に類人猿サピエンスの方が多い。

「一時は機械式でもっと栄えていたものよ」

 ビッツィーはそう付け加えた。


 私達はこの街に滞在する事に決めた。勿論、この街にとって、それは不幸な事なのだけれど。

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