第30話 フランソワも一緒


 車は異空間を走った。

 私は助手席で無言だった。

 しばらくしてからビッツィーが口を開いた。

「ノリコ、そう云うの止めて」

「……私何も云っていない」

「それよ、それ」

 ビッツィーは溜息を吐いている。

 逃避行が始まる事は理解していた。

 自分で選んだ道なのだから、覚悟するべきだと思うのだが、どうしても心配が先に立ってしまう。

 車が異空間を抜けた。

 エンジンが静かになると、沈黙が際立きわだった。

 私は訊いてみた。

「ビッツィー、警察に追われて、私達これから如何どうするの」

「もう、ノリコそう云う態度をねえ――」

 ビッツィーが云いかけた時だった。

 後部座席からガタガタ音がした。誰かが座席の後ろで動いている。

「あい」

 声と共に飛び出したのは、フランソワだった。

 何時いつの間にか車に飛び乗っていたらしい。

「ええ。手品?」

 と声を上げていたから、ビッツィーにも予想外だったようだ。

 空間術が解けて頭は閉じている。が、醸造術じょうぞうじゅつを受けた後遺症か、人が変わってしまっていた。と云うか酔っ払いに見える。

 彼女は外の景色に歓声を上げると、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

「そと」

 一言、声を上げると、彼女は新しい街目指して一目散に走り出した。

 残された私とビッツィーは顔を見合わせた。

如何どうするの?」私は訊いた。

如何どうって、連れて戻る訳にもいかないじゃない」

「でも、あのまま街に入っていったら騒ぎにならない? 指名手配された時のことを考えると……」

「もう~」

 私たちは走ってフランソワを追いかけ始めた。

 これが、ビッツィーと私とフランソワ、三人の旅の始まり。

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