第17話 洗剤と醸造


 私も、小さな頃は友達の誕生パーティーにお呼ばれしもしたものだった。

 けれど、日曜に学校の制服を着ていたのは私だけだったし、プレゼントに洗濯用洗剤を持って行ったのも私だけだった。家計の具合を考えれば、親としては苦肉の策だったのだろう。

 家に帰ってから私は「相手は喜んでいた」と嘘をいた。次からはパーティーに呼ばれなくなったが、私はほっとしていた。


 クラウス家ではこの所、十六歳になるフランソワの誕生パーティーの準備に余念がなかった。慣習に従って村中がお祝いに訪ねて来るだろう。あのアルミラを除いた皆で。アルミラはどう思っているのだろう。悔しがっているのか。それとも安堵しているだろうか。

 きっとフランソワには、私やアルミラの気持ちは理解出来ない。


 今日もまた彼女は部屋へ私を迎えに来る。

「ノリコ貴女あなたまた地味な格好してる」

 フランソワは私の制服を身につけて現れた。もちろん無断で。自分で洗うといったのを、使用人さんが無理に持って行ったものだった。思えばフランソワの命令だったのだろう。

「どう? 私にも似合うでしょう? 少し肩周りが窮屈きゅうくつだけれど」

「それは私が学校で着ていたものだよ」

「学校で? やっぱり。いいわねぇ制服!」

 この辺りの感覚は私には分からない。この村で制服のある学校は珍しいという事なのだろうか。それとも私の制服のデザインが珍しいのだろうか。

 フランソワは鏡の前を行き来して御満悦ごまんえつの様子だ。着古した制服のボロボロな生地には一切気に掛けていないらしい。要するにフランソワにとって、物は気に入るか、気に入らないかなのだった。気に入ったものには寛大かんだいになる。気に入らなければその反対だ。

「お出かけするなら、これ持って行ったら」

 部屋を出かけた所で、ビッツィーが呼び止めて来た。何かを持たせてくれるらしい。

「洗剤とか?」

「それも喜ばれるかもしれないけれど」

 ビッツィーがれたのは、彼女お手製のお酒だった。

 それは香水の様な小瓶に入っているが、うつわへ注げば一リットル飲んでも無くならないという不思議な代物だった。

「私、お酒飲めない」

「物々交換のネタくらいにはなるわ。お嬢さんも良かったらどうぞ」

「さっさと行きましょうノリコ」

 お嬢様は見事に無視した。

 私はフランソワの分のお酒も受け取ってあとを追った。

「お土産話みやげばなし、期待してるわ」

 とビッツィー。

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