第31話

服を着替えた俺は部隊長の元へと。

俺の姿を見た部隊長が、不思議そうな顔をしてんぞ、なんだ?


「どうした?

 賊のアジトへ向かったのではなかったのか?」ってな。


「えっ?

 アジトへ行ったけど?」

なんだろね?


「途中で引き返したのか?

 トラブルでもあったのか?

 そう言えば、なにやらボロボロになって戻ったと聞いたが…」

なんか、勘違いし始めたんですが。


「いやいや、キチンと賊アジトへ行って来たからなっ!」ったらさ、不思議そうな顔された。

なぜだ?


「あのな、ヤツらのアジトまで半日は掛かるんだぞ。

 昨日の夕方近くに向かったのに、昼前に帰って来たって…

 一睡もしてないとしても、時間が合わんだろがっ!」


確かに片道が半日(12時間)で、往復1日(24時間)と考えれば、行って帰るだけで今日の夕方近くになるのか…

これに潜入偵察または討伐の時間を含めると、この時間に帰ってくるのは、おかしいと。

まぁ、正論だわな。


だがな。

「いやぁ~走る速度が上がりまして」って、本当のことを告げたらな。


「馬を疾走させても無理だわいっ!

 っと言うか、何頭も馬を乗り潰しての最速移動でも不可能だからな」


「いや、本当、本当。

 賊アジトを壊滅させて来たし。

 っか、見張り兵からの伝書鳩が、そろそろ届くんじゃね?

 討伐後に話して来たし」


アジトの出入り口2つを見張っていた隠密隊にな、討伐後に接触したんだわ。

んでな、彼らをアジトへ案内したのさ。


しかしなぁ、出入り口の1つを見落としてるし、崖中腹の穴から隠密隊の姿がバッチリだったしなぁ。

大丈夫か、隠密隊。


アジトを案内し終えると、伝書鳩を放ってたんだわ。

それを見届けてから帰ることにしたんだが、途中で伝書鳩を追い抜きましたよ、なにか?


鳩も賢くてな、俺に追い越されて慌ててたよ。

ちょっと可愛かった。

抜かれたのでムキになってたけど…力尽きてなければ良いんだけどね。


そんなん思ってたら、兵が何かを持って来た。

うん、文。

伝書鳩が運んでたヤツだな。


部隊長が文を受け取り…

「サイガ」ってな。


「なんでしょ?」


「おまえ、魔術は使えなかったよな?

 魔道具か?」ってな。


だからさぁ。

「個人情報にて黙秘します」ってやったよ。

ちなみにな、禁則事項または企業秘でも可だぞっとぉ。


「ふむ、流石に明かさんか」


いやいや、既に事実は告げています。

単純に走って帰ってきただけやん。

体力と移動速度が、異様に向上してるがなっ!


「まぁ良い。

 ただ、現地を検証せねばならん。

 俺はテイマーに命じ飛竜にて現地へ飛ぶ。

 おまえは、後から来るように。


 おまえの移動速度なら、可能だろ?」って告げてニッコリ。


伝書鳩からの手紙にて、事実とは思って認めてくれたようだ。

だが、その移動手段を俺が明かさないため、意趣返しと…

いやいや、正直に明かしてんだがねぇ。


でぇ、蜻蛉返りで賊アジトへと戻れと?

まぁ雇われてんだから従いますがね。


「分かりました。

 そちらは準備があると思いますので、先に出ますね」


「うむ、了解だ。

 あちらで待っとるからな」


「では」っと言い残し、俺は野営地を後にな。


むろん、今の俺ならば賊アジトまで、さほど掛からない。

サクッと移動して隠密隊と合流して、部隊長を待つことにな。


隠密隊の面々も、賊アジトが壊滅したことを確認した後なので、休息モードにな。


俺と駄弁りながら部隊長を待ってんぞ。

まぁ死地に近いここで、何日も賊アジトを見張りながら過ごしたのだから、気が抜けてもしかたないだろうよ。


俺達が歓談していると、テイマーが操る飛竜に乗った部隊長が到着した。

まぁ、テイマーのトトは飛竜の背へ1人で乗り、部隊長達は飛竜が足で掴んだ竜車に乗り込んでの移動だがな。


でな、飛竜が竜車を地へ降ろし、その上へ止まったタイミングで、部隊長が竜車より出て来た。

そして出ると同時にな。


「なんでキサマが、先に着いとるんだぁっ!」って、怒鳴ってくるんだが…

知らんがなぁ~

しかし、元気なオッサンやねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る