第29話
木々に囲まれ苔むした岩の下へと空いた穴。
そんな所へと繋がっていたようだ。
辺りは巨木が乱立しており、雑木や下生えの草などが穴を隠しており、容易に見付けることなど、できないであろう。
視界が悪いため辺りが見渡せず、現在位置が不明。
なので巨木の幹や枝を蹴り付けながら跳び上がる。
樹上にて、ここが賊アジト南西の森だと判明。
峻険たる山の裾へ広がっており、俺が入った入り口からは、尾根が邪魔して見えない位置だった。
山を越えた向こう側っと言うことではない。
東側へと伸びた岩山が、北東と南西に地を別けている感じだな。
アジトへは北東側の地より、本山の東斜面へと開いたら洞窟より侵入。
他の出入り口も北東側で、崖中腹の穴もそうだ。
あちら側は峻険たる崖となっており、本山から伸びた分山を登ることは不可能。
あちらから、南西を伺うことなどできないだろう。
北東の地より南西の地は低いと思われる。
そして森林が広がる緑豊かな地となっていた。
分山より、こちら側へと水が沸きだし、川となって森の中へと。
洞窟内へ沸きだしていた伏流水が流れてきているのだろうか?
おおよそだが、現在地は分かった。
俺達の町からは、分山が邪魔しているため知られてない場所だな。
まぁ立地的には人里から離れすぎているため、開墾などは困難だろう。
ここから北東側へ帰るには、隠し通路を辿るしかあるまいな。
なので出てきた穴へ戻り、洞窟にて出口を隠蔽。
隠し通路途中の隠し部屋もだ。
当然、隠し通路から出たら、隠し通路を念入りに隠蔽したよ。
隠し通路を知られたら、隠し部屋や隠し財宝も知られる可能性があるからな。
建前上の規則では、討伐者が見付けた代物は、討伐者の物だ。
持ち運べるだけとの制約が付くが、それでも権利が保証されてはいる。
いるのだが…稀少な代物を知られたら、重要物資とされ接収される場合がな。
それは、それ。
これは、これ。
国威のためならば、差し出すのが国民の務め、などとな。
うっせーわっ!
以前に、やられたことは、忘れとらんよ?
正直に申告したら感謝されるだろう。
ありがとうってな。
んで、価値がある宝は持ちかえられてしまうってな。
正直者には福が来る?
いやいや、搾取する者にはだろ?
この度の討伐は、以前の俺なれば生きてはいなかっただろう。
捨て駒あつかいとは言わんが、生きて帰ってくるとは思っとらんだろうよ。
そんな輩へ、命懸けで手に入れた代物を、正直に渡す訳ねーじゃんね。
ある程度の隠蔽工作を、洞窟のあちこちへと。
一部の賊が逃げ出したように。
そやつらが、お宝持ってトンズラしたのさってね。
苦労して、なんとか壊滅近く退治したが、退治している間に逃げられたてぇシナリオさね。
支度が終わったので、賊のアジトを出る。
畑や家畜には、手を出さない。
今回の目玉ってヤツさね。
洞窟から出た俺は、すぐさま領軍の野営地へと。
半日ていどの距離など、一瞬さね。
っかな、帰しよりも速く動けてるような…うん、気のせいじゃぁねぇな。
おそらくだが…高濃度魔那に曝されたことが原因だろう。
いくらスライム達が体内魔那を整えてくれたと言ってもだ、あれだけ濃い魔那へ曝されて、影響がでないはずもない。
スライム達が居なかったら、体に悪影響が出てただろうな。
気配を消した侭、高速移動にて野営地へと。
「やぁ」って、見張りの兵へ挨拶したらな、なんか仰天された。
んだぁ?
「おま、サイガ?
っか…どっから現れた?
いや、それより…おま、大丈夫か?」
なにが、だろね?
俺が首を傾げるとな。
「いやいや、おまえ、服がボロボロだし、乾いてるが、それ…血だろ?
誰か聖術師を呼んでやれっ!」っうことを。
んっ?服?…おや、ボロボロだぁ~ねぇ。
血塗れて乾いたような感じで、端から見たら悲惨だろう。
「いや、気付かんかったわ。
怪我しとらんから、聖術師は呼ばんで良いぞ」ったらな。
「「「嘘つけぇっ!」」」って、皆にな。
いや、本当なんだが、なぁ…
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