第13話

おかみさんに、理由を訊くとな。


「サイガさんねぇ…

 あんた、5日も音沙汰なしだったんだよ。

 町への馬車は、ここからしかないからさぁ、他所へ行くて言うのも無理さね。


 行方不明ってことになってね、既に亡くなったて話しもさ」


…そんなことに、なってたんだなぁ。

っか、5日も経ってたのかよっ!


「それは、お騒がせを。

 でも、無事に帰って来ましたから」ったらな。


「いやね、昔からの伝承でねぇ。

 山へ向かった旅人が帰らない…神隠し伝説て言うのがさぁ、村に伝わっているんだよ。

 なので、サイガさんもって話しにね」


おかみさんの話しに思い当たる節が…

あの死体達だな、神隠しの対象は。

別に隠し事でもない訳だし…


「その神隠しにあったと言われている方々は、たぶん、全員が死んでますね」


そう伝えたらな、首を傾げられた。

「なんで、そんなことが分かるんだい?」って尋ねられたのでな。


「それらしき死体を見たからですよ」ってな。


したらな、マジマジと顔を見られ…

「それ、どう言う意味だい?」ってな。


答えても良いのだが…正直、腹がな。


「おかみ、悪いが腹が減っていてな。

 先に腹拵えしたいのだが?

 それに泊まれるならば、部屋も押さえたいところだ。

 どうだろう?」ったら…


「あんら、やだよぉ~私としたことが…

 えっと、部屋は2階の最奥を使っておくれな。

 これが鍵だねぇ。

 昼は今からでも食べられるよ。


 て言うか、今日の客はサイガさんくらいさね。

 村の何人かも、町の祭りへ行ってるからさぁ、静かなもんさね」


ああ、確か…聖人さまの誕生祭があるんだったな。

俺も楽しみにしていたのだが…今からではなぁ。


「ふぅ、私も宿が無ければねぇ。

 この仕事には、休みがないから…

 まぁ、明日から5日間だから、明日馬車が出ればサイガさんは間に合うだろうけど、祭りの間は馬車が運休だからねぇ。

 サイガさんも、今年は諦めなさいな」


そう告げた後でな。


「まっ、開店休業状態だからさ、食堂でサイガさんの話を聞こうじゃないかい」ってな。


どうやら俺が語るのは、決定事項らしい。


しかたなく、おかみさんと共に食堂へと。

席に着くと、おかみさんが旦那さんにな。

「今日の賄いを3つ。

 作ったら、あんたも食堂へおいでな。

 サイガさんが、神隠しについて、話してくれるってさ。


 どうせ今日は、夜まで客なんて来やしないよ。

 早めに頼んだよ」ってんだが…賄いって…をいをい。


「今日は奢りさね。

 客が来ないからさ、痛まない内に足が早い食材整理も兼ねるからね。

 そら豪勢な昼食になるんだよ。


 まぁ、棄てるよりマシってぇもんさね」


まぁ、食材の歩留まりは良いとはなぁ。

保冷の魔道具が広まってはいるが、保存には限界があるからな。


「おし、できたぞっ、運んでくれ」って、厨房から声が。


今日は給仕の娘達の姿や、息子さん達の姿が見えないようだな。

はて?


「息子さんや娘さん、手伝いの方々は?」

不信に思い尋ねると…


「ああ、暇になるから休ませてるんだよ。

 皆、町へ遊びに行ってるよ」

そ、そうなんだ…

親を置いて、子供達だけで?

まぁ子供っても、二十歳近い年頃だった筈だがな。


「若い頃は、色々と経験したほうが良いのさ。

 てか、私の若い頃も、同じようにしたもんさね。

 順繰りって訳だよ」

まぁ、そう言うこともあるのだろう。


そして、おかみさんと旦那さんが料理を運んで来た訳だが…豪勢だな、をいっ!


牛の肉がゴロゴロと入ったホワイトシチュー、ステーキとサラダに溶けチーズ乗せトースト。


どれも美味そうだ、っか、美味いんだがな。


「それで…神隠しにあった連中が、皆、死んでるってのは、本当なのかい?」

おかみさんが告げると、旦那さんが驚いているな。


「本当ですよ。

 実は…」


俺は魔法文明遺跡について語って聞かせる。

遥か古より存在し、今も稼働している、恐るべき遺跡のことを。


決して討伐など試みてはならない。

下手をすると、村…いや、国が、ラウンドリムが、滅びるだろう。

特にゴライゾンがヤバイ!

あれを怒らせたら無事には済むまい。


「サイガさん…あんた…良く生きて帰れたねぇ」


「そうですね。

 初の脱出者らしいですから…

 我ながら、良く生きて帰れたと、染々思いますよ」


もう2度とゴメンだからなっ!

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