第12話

洞窟から転移にて脱出したのが何時だったのかは分からない。

亜空間倉庫の検証に、多少は時間が掛かったが、それでも1時間は掛かってない筈だ。


山裾の森中であるため、太陽の位置が分からず、今が何時頃か不明。

っと言うか、遺跡内は洞窟であり、日の光が全く入り込まない暗闇だったため、時間の感覚を失っていたんだわ。


兎に角、近場の村へと。

洞窟内で見に染み込むように癖となった隠密行動を無意識に。


ただ、自分でも思っていなかったほどに、スルスルと移動がな。

俺…気配を消しつつ、こんなに速く歩けたっけか?


っか…洞窟へ入る前の全力疾走を遥かに超えてるんだが…

もしかして…指輪の副作用か?


人里へ出る前に、身体能力について検証したほうが良さそうだ。

万が一、力が上がっていた場合、その気がなくとも人を害する危険も。


取り敢えず、道端の石を持ち上げる。

お、重い…うん、持ち上げる力は、以前と変わらないな。

一般並み、フリーランス仲間達からは貧弱と言われていた侭っと…

あいつらが、異様に力が強いだけだわいっ!


軽く木の幹を叩いてみる。

木へのダメージは無しっと。

筋力に変化はなさそうだな、うん。


次は、軽く跳んでみる。

って!跳び過ぎだろがっ!

巨木の枝へと、飛び乗れたんだが?


そう言えば…動体視力や遠視力も伸びてるような…

遥か上空を飛ぶ鴨を的確に把握し、亜空間倉庫へと捕縛したからなぁ。


見える範囲の木の枝へと跳び移る。

俺は猿にでもなったのか?

この距離を跳び移れるなんぞ、人間技じゃぁねぇぞっ!


木の枝から木の枝へと走るように移動が。

しかも無音にて気配なし。

以前の俺には不可能だったことだ。


村近くの川が見えた。

樹上を移動したため、道を逸れているな。

橋から離れている。


んっ?

鱒が泳いでいるのが見える。

亜空間倉庫へと。


こんなに簡単だったけか?

川も1跳びにて跳び越えた。


移動速度が異様に上がってんぞ、これ…

しかも疲れないんだが?

馬車移動で村から町まで3日だが…自走した方が速いやもしれん。


少なくとも、森を迂回せずに直進できれば、1日でも行けるかも。

迷わなければな。


だが…行きたい方向が、なんとなく分かるんだわ。

以前には、こんな感覚はなかった。

森の中で方向を確認せずに走り回れば、流石に迷うことになっただろう。

なのにだ、今は迷わず村を目指せている。


こんな効果を秘めた指輪はなかった筈なのだが…はて?


普通ならば、山道入り口から村まで4時間以上は掛かるだろう。

それが数分で移動できたんだが…どうなってんだ?


まぁ、考えても解決しまい。

ならば考えるだけ無駄だな。


村の入り口が見えたので、木の枝より跳び降りて向かう。


村門には門番が2人ほど立っており、辺りを警戒…してねぇなぁ、ありゃっ。

2人して駄弁りつつ、気が抜けた感じて塀へ寄り掛かってんぞ。

まぁ、田舎の村落だし、危険生物が現れるのも稀。

気が抜けてもしかたないか…


っても、目の前を俺が通過して気付かないのも、どうかと思うんだが。


元々、村に入るのに検閲などない。

だから2人に気付かれずに村へ入っても問題はない訳だ。

俺は2人を無視して、堂々と村へとな。


村へ入った、その足で、村内1つだけの宿へと。

太陽の位置から考えるに、ちょうど昼時だな。

宿では酒場が併設されており、昼は食堂となっている。


ますは宿を取ってから腹拵えだな。


宿へ入ると、おかみさんの姿が。

先日も泊まったんだが、覚えて貰えてるかな?


「おかみさん、部屋は空いてるかね?」っと、声を掛けたらな。


「ひょえぇぇぇっ!

 驚いたよぉっ!

 どっから現れたんだい、あんたっ!」って、仰天された。


あっ、ヤベっ!無意識に気配を消してたわ。

そらぁ、ビックリするわな。


「どこって…普通に入り口から入ったが?」

惚けますよ、なにか?


「あ、ああっ…確かにねぇ…

 それしか、ないわねぇ。

 って!あんた、サイガさんじゃないかねっ!

 無事だったんだねっ!」っと、そんなことをな。


いや、無事って…どゆこと?

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