第11話

俺はゴライゾンが示した先へと向かう。

彼の話しでは、全てが終わり帰れるような感じだったが…油断は禁物だ。

最後に受け取った指輪は破格な性能だったが、あの立ち眩みから鑑みるに、下手をしたら死んでいたやもしれん。


最後に報酬っと言いながら、死の試練を課してきたのだから、この先に危険がないとはな。


気配を消し、辺りを探りつつ進む。

途中に大蠍座が潜んでいたり、落とし穴に槍が飛び出す孔など…油断してたら、死んでたな。

完全に、殺しに掛かってっだろ!


そして、転移陣らしき代物が。

乗るしか帰る方法がないとして…この転移陣を信じて良いのか?

転移先が、石の中って落ちはないよな?


疑心暗鬼に捕らわれても、先に進まねば、いずれは食料が尽きて死ぬ。

ゴライゾンに頼るなど考えれば、絶対に殺されるだろうしな。

っか、屋敷から、ここまでの道程みちのりにて、既に殺しに掛かってっし。


何度も死を覚悟したんだ、今更か…

覚悟を決めて転移陣と思われる物に乗る。


乗ると同時に魔方陣が発光!

余りの眩しさに目を閉じるが、気配を探ることは止めない。

一瞬の油断が命取りだからなっ!


って、辺りの雰囲気が変わる。

洞窟内独特の閉塞感が消えたような…


目を開け、気配を消しつつ、辺りを探る。

うん、洞窟入り口が存在した中腹へと向かう山道入り口だな。


入った場所へと戻されるのかと思ったが、山の麓へと転移させられたようだ。


「た、助かった…のか?」

死の極限を何度も潜り抜けたため、全く実感が湧かない。


だが…鳥の囀ずりに、梢が擦れる音…

自然の息吹き、洞窟内には存在しない音。

爽やかな風が頬を撫で…脱出できたことを実感した。


ヘナヘナヘナっと、脚の力が抜け座り込む。

腰が抜けたとも言うな。


しかし…良く生き残れたな、俺。

そう思いながら、指輪を外そうと…外そう…外…れ、ない?

はぁっ?

指輪が外れないんですがっ!


指に一体化したように癒着してるぞ、これ。

っか、体の一部のように違和感がない。

マジ?


もう、良いや。

疲れたし、帰るべ。

ってもな、ここから町まで、軽く3日は掛かる。

なので近くの村まで移動し、今日は宿泊だな。


村の雑貨屋は割高だし、物も少ない。

品質も良いとはな。

だから買い物はなしだ。


だが、牧畜が盛んで、チーズが特産だった筈。

日持ちがしないミルクにバターも購入できるが、村で消費する物だからなぁ~

劣化しなければ…って、んっ?


そう言えば…最後に受け取った指輪、亜空間倉庫ってなかったか?

魔術学院での依頼達成報告にて、導師が魔法文明についつ語り始めてな、辟易したものだが…

たしか…魔法文明期に異空間へ物を収める業があり、その異空間内では時が止まるとか言ってたような…


もしかして、この指輪からアクセスできる亜空間倉庫の中も、時が止まるのでは?


ならば確認しなければな。

俺は水補の魔道具から2つのカップそれぞれへ白湯を注ぐ。


1つは亜空間倉庫へと、もう1つは俺が持つ。

しばし休みつつ、白湯が冷めるのを待ち、白湯が冷めたタイミングで亜空間倉庫より、白湯を入れたカップを取り出した。


冷めてない、冷めてないぞっ、これっ!

つまり…亜空間倉庫内は、時が止まっていると言うことだな。


これは、凄いお宝だっ!

まぁ、己の命をチップにした賭けに勝たなければ、手に入らないのだが…


使い方も、目視範囲内…いや、目視範囲内外でも出し入れ可能。

目視範囲内だけかと思ったが、試しに背後の岩を取り込んだら入った…


っか、見えてる範囲が氷山の一角レベルでな、取り込んだ岩の跡に大穴がな。

知覚した物ならば、取り込めるってことか。


生き物も取り込めた。

試しに、飛んでいる鴨を狙って取り込んだんだが…すんなりとな。


だが…亜空間倉庫内へ取り込んだら即死したよ。

入れられるが、生きた侭は無理と…

生け捕り不可能だが、狩り放題だぞ、これ。


ある意味、最強武器やもしれんな。

狩った獲物に傷1つない訳で…商品価値は最高となるだろう。


さて…検証は、ここまでにして、そろそろ行きますかね。

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