第8話 生み出される実用品

「――できた」


 あれから数日。ウチが設計図を書き起こして、その間にジーネちゃんが寝て、ウチが材木などを仕入れている間に、ジーネちゃんが寝て、ウチが部品を切り出して……

 まあ、つまりウチが全部一人で作り上げて、

 ついに完成したんや。自転車が。


「おお、出来たか」


「うん。さすがに当初の形からは随分変わったけど、きっと使いやすいはずやで」


 前輪を取り付けた棒は、そのままハンドルへと繋がっている。ここを握って、左右に方向を転換する仕組みやね。その回転軸を抑えるヘッドから、後輪の軸までを一本の棒でつないでる。

 人間が座ることになる椅子の部分は、ある程度のクッション性を持たせるために板バネを仕込んでみたわ。もっとも、これは本来なら馬車用の部品で、果たして人間の体重くらいの軽さで動くのかは疑問だけど。


「いい形だな。これでカゴでも付けたら、買い物の時も荷物を持たなくていいぞ」


 と、ジーネが言う。こいつ、本当に面倒くさいと思ったこと全部を回避する気やんけ。

 でも、


「自転車だ。自転車だな。お、ここは何で低くなるように曲がっているんだ? あ、さてはスカートでも跨ぎやすいようにだな。ほうほう」


 こうして完成した作品を見て、純粋に喜んでいるジーネちゃんを見ることが出来たなら、ウチも作った甲斐があるかな。

 それに――


「なあ、ジーネ。それ、ウチにも使わせてくれへん?」


「ん? まあ、いいぞ。――なんだ? やっぱり気にいったのか?」


「ま、まあ、せやな」


 最初こそ恥ずかしい車体やとか、乗ってるところを見られたら恥ずかしいわとか思ってたけど、それでもな。

 これほど自分で手間かけて作ると、なんだか誇らしい気さえしてくるってもんやねん。


「ふっふっふ……」


「な、何や?」


「いや、これをヴォイドが気に入るって事は、私が開発した『自転車』は、より多くの人が欲しがるんじゃないかと思ってな。せっかくだから、大量生産して売り出したら、もっと多くの人が欲しがるんじゃないか?」


「……いや、どうやろな?」


 ウチは特別な思い入れがあるから、使いたいとは言ったけどね。他の人はこの車体がどれほど便利かを知らないやろうし、それを体験させないと『使いたい』って思ってくれる人が少ないんじゃないかな。

 あ、じゃあ体験させるような環境を作ればええんかな。まあ、この自転車を誰かに貸してみて、反応を見るのもいいかもしれない。この見た目だから誰も乗りたがらないと思うけど、声をかけてみるだけならタダやし……


「まあ、期待はせんでな」


 ウチはそう言いながら、胸の奥の方にじわりと、自分でも抑えられない期待を感じていた。

 あかんな。期待するなと人に言っておきながら、もしかしたら一番これを気に入ってるのは、ウチかもしれんわ。


「じゃあ、ジーネちゃん。せっかくやし、試運転に行ってみんか? ウチじゃなくて、ジーネちゃん自身が」


 ウチが提案すると、ジーネはものすごく嫌そうな表情を見せた。うわっ、分かりやすいなぁ。


「は? 私が? 嫌だよ面倒くさい」


「いや、その面倒くさい歩行を面倒くさくないようにするための自転車やんか」


「何か用事があるならともかく、そうでもないなら使わなくてもいいだろ。わざわざ」


「もー、素直やないなー」


 とはいえ、ウチはジーネに乗ってほしくて、ここまで頑張って作ったんやえ。何が何でも乗ってもらうわ。こればっかりは堪忍な。


「なあ、ジーネ。ちょっと頼みたいお使いがあんねん。本当はウチの仕事なんやけどな」


「え?」

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