第9話 怪しい集団
空腹と疲労。睡眠というより気絶に近い。ひろしと美希は気まずさを保ったままいつの間にか眠ってしまい、陽の光で目が覚めた。
ひとつ伸びをして、ひろしはすぐさま自動ドアを開け始めた。それに気づいた美希も手伝う。
空いたドアからキョロキョロと辺りをうかがう。ちらほらとゾンビはいるが、昨夜のように2人を仕留めようと明確な意図を持った者はいなかった。やつらは日光が苦手なのだろうか。なぜ夜に活発になるのか。スーパーに立てこもっていた男はそれを知っていた。何か有用な情報があるはずだ、と鼻息荒くひろしはスーパーに向かった。美希も後を追う。
「あの!」
スーパーの入口に向かってひろしは怒鳴った。
しばらくして男が割れたガラスから顔を覗かせた。
「あの、今日こそ入れてもらえないでしょうか?」
「……」
男は何も答えない。おそらくこの男には何も決定権がないのだろうとひろしは考えた。
「あの……上の方いらっしゃいます?」
「……あぁ」
飯塚さん、と男はスーパーの奥に振り返って叫んだ。奥からモップに包丁を巻いた武器を持った髭面の男が現れる。三国志の漫画で見た関羽のようだ、とひろしは思った。
「こんにちは」
飯塚と呼ばれた男が挨拶をしてきた。
「中に入れてもらえませんか?」
「……」
ギロリ、とひろしと美希をにらみつける。高級な宝石を買う時のように、偽物でないことをしっかりと吟味している目である。
「いいだろう」
飯塚の合図でバリケードが解除され、ドアが開いた。ゆっくりと中に入る。美希はひろしの背中に貼り付いている。
店内にはナマものを除いてまだたっぷりと食糧があった。助かった……とひろしは抜けそうな腰を必死に支えた。
中には8人の男女がいた。正確には7人の男と1人の女である。飯塚がリーダーであることは風貌から明らかだった。
「よろしくね」
ひときわ恰幅のよいニコニコした男が手を差し出した。ひろしがその手を握るとぶんぶんと上下に揺すられた。男は玉置と名乗った。
「お腹、空いてないかい?」
「あ、実はめちゃくちゃ空いてます」
「そっかそっか、じゃあ菓子パンでもどうぞ」
レーズンパンとマーガリン入りのパンを渡された。美希はレーズンパンを受け取り、ひろしはマーガリン入りのパンを受け取った。
「お前らどこから来た?」
それぞれ出身の町を述べる。
「……クロイハルを知ってるか?」
ひろしと美希は顔を見合わせた。そして同時に首を振った。
「そうか……」
使えないやつらだ、と言わんばかりの顔である。
「この声に聞き覚えは?」
飯塚の傍らにいた目の細い華奢な男、間宮がボイスレコーダーを差し出し、ボタンを押した。
われわれは…
クロイハル…
アスウイルス…
ラジオの音声が流れる。その内容にひろしは驚愕した。
「このクロイハルってやつらが、このゾンビウイルスをばらまいたと?」
「やつらはそう主張してる」
「発信源もだいたいはわかってる、おそらく県内だ」
この世界は、こんな田舎から始まってしまったのか、とひろしは恐怖とも憤りともとれる表情を浮かべた。
「この声聞いたことある」
美希がぼそり、と言った。
「……なに?」
「毎日聞いてた」
「え?」
周りの人間が美希に集まってきた。
「校内放送の声」
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