第2話 外の世界

誤算だった。いや、無知だったのだろうか。

1週間分の食糧備蓄から、その間に自衛隊の救援を待つはずだったが、2日後に電力供給が止まり、さらに翌日には水道から水が出なくなった。ガスの供給が早々と止まったところで焦るべきだったとひろしは布団の中で悔しさをにじませる。


インターネットはスマートフォンの充電が切れて以降接続していないが、おそらく世界中のサーバーも落ちてしまっているだろうと予測した。情報は何も入らない。


大事にとっておいた冷蔵庫の中身は猛暑で異臭を放ちはじめている。リビングテーブルの真っ黒に熟れたバナナを小さく小さく切りながら飢えをしのいでいた。


農家の親戚から送られてくる米は大量にあるが、炊けないのであればただの土くれだ。どこかに井戸水をひいて飯盒炊飯でも行っている民家に逃げ込めればいいが、外界に出る勇気はなかった。


あの日から2週間が経つ。両親や友人とも連絡はとれず、情報も断絶されている。ひろしは孤独と不安で今にも投げ出しそうな心を必死に抑え、救助を待ち続けていた。


しかしこのままでは餓死がすぐそこまで迫っている。なにより飲料水が切れかかっている。災害時に備え、いつも父親が2リットルの水を12本は用意していたが、日中40度に迫ろうかという気温で大量に消費してしまっていた。


災害時に備え……、ふと思い出したように布団を出て一階の和室の押し入れを開ける。

そこには災害用リュックがあり、懐中電灯や雨合羽や携帯用トイレ、それに500ミリリットルの飲料水が4本と水でふやかすことで食べられるお粥のパッケージが5食分入っていた。


助かった、とひろしはリュックを抱いて涙を流した。父親に感謝するとともに生きる希望をこのリュックから吸収した。


さっそくお粥のパッケージを開き、そこに少量の水を流し込んだ。米が膨らみ、たちまち香ばしい匂いが鼻腔を貫いた。


ひと口、口に運ぶ。飢餓寸前でなければおそらく見向きもしないであろうその料理の美味さに自然と笑みがこぼれる。鮭風味と書いてあるそのパッケージからもわかる通り、かすかな塩味と鮭のほぐれる繊維質の食感、少々野暮ったい米の弾力がバナナで麻痺していた味覚を刺激し、縮んだ胃が音を立てて膨らんでいった。


ものの数秒でお粥をかき込むと、舌に残る米の甘さにうっとりしながら畳の上に寝転んだ。


救助はない。


食糧も尽きる。


外に救いを求めるしかない。


災害セットが勇気を与えたのか、はたまた久しぶりに感じた美味が欲求を狂わせたのか、ひろしは荷物をまとめるとバットを両手に握りしめながら、玄関の扉を左肩で押し開けた。

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