第15話 パーティーは最高潮

「ど、どうする……?」

「い、いやカルノ様でないと……」

「カルノ様はどうなされた?」

「目の前で父君、将軍閣下を殺されたのだ……取り乱しておられる……」

「くっ、陛下は一体何を考えておいでなのだ! あのような奴隷も同然の男を殿下の婿などと!」


「どうするのだ!」

「かくなる上は我らが伝統貴族の誇りを示すしかあるまい!」

「どのように!?」

「直訴だ! 我らが一丸となって陛下に訴えるのだ!」

「くっ、何を訴えるのだ? 今更婚約の無効などできるのか?」


「どのようにしてくれようか!」

「今しかないのではないか!? 今宵が終われば殿下の御身は奴の手に……!」

「手をこまねいてはおれぬ!」

「まずは行動だ! 陛下に直訴するのだ!」

「よし、無念の死を遂げたあの三人の分まで我らが動くのだ!」


ダンスをしていない高位貴族の男達は国王に直訴するらしい。何を言いたいのだろうか。


「陛下。意見具申をご許可いただきありがとうございます!」

「陛下! 陛下は連綿と続く王家の血をどのようにお考えなのですか!」

「あのような穢れた血を王家に入れるなど! 末代までの恥ですぞ!」

「どうかお考えなおしを! 将軍を手打ちにされるほど失望されておいでではないのですか!」

「殿下の婿は我ら伝統貴族からお選びください! さもないと我らは!」


「我らは? どうすると言うのだ? そもそも今回の件はアイリーンの独断だ。余の言うことなど聞きもせぬわ。どうだ? お前達で束になってアイリーンに挑戦してみぬか? いささか遅い気もするがな。」


国王としての本音は見えないが、手の出しようがないのは分かった。だからとて貴族達も引き下がるわけにはいかない。自らの栄達がかかっているのだから。実際には剣奴ごときが自分達の上に立つのが我慢ならないだけかも知れない。


「望むところです! 我ら伝統貴族の真価をお見せいたします!」

「我らのやり方をとくとご覧ください!」


あれこれと仕込んだ末に将軍は死んだ。この上で一体どのような手段が残っていると言うのか。ちなみにバルドもアイリーンも会場に入ってから一切飲食をしていない。言うまでもなく毒殺を警戒しているのだ。




「バルドロウ殿。少々男同士で歓談といきませんか?」


先ほどの貴族がバルドにすり寄っている。態度こそ下手に出ているが、蔑むような目つきを隠そうともしていない。


「バルドに何用か?」


それを遮ったのはアイリーン。


「殿下……我らは男としてバルドロウ殿と話がしたいのです」

「バルドロウ殿に男の生きる道を教えて欲しいのです」

「どうすれば彼のように強くなれるのか、知りたいのです!」

「殿下と対等の強さを持つ素晴らしき方、ぜひご挨拶せぬわけにはいきませぬ!」

「バルドロウ殿、いかがかな?」


「では少しだけ。アイリーン、後でな。」


少し寂しそうなアイリーン。しかしバルドが離れた途端、他の男性貴族に囲まれてしまった。まだ諦めてないのだろうか。




「まずは乾杯といきましょう」

「これはそれなりの名酒ですからな」

「我らとてそうそう飲めない味わい。ぜひともどうぞ」

「どうぞお受け取りを」

「それでは、アイリーン殿下の生誕を祝って乾杯!」


『乾杯!』


貴族達は飲み干したが、バルドは飲まない。


「すまないな。今夜のために酔うなと言われている。酔うと男性機能が落ちるからと。」


見下した目が嫉妬の視線に変わる。今夜お前達が欲して止まないアイリーンと結ばれる、そう宣言しているも同然だからだ。もっともバルドはそんな難しいことは考えていない。そう言って断るよう指示されただけだ。


「我らの酒が飲めないと言うのか!」

「おのれ剣奴風情が!」

「黙って飲めばよいのだ!」

「その汚れた手で殿下を……!」

「もはや勘弁ならん! くらえ!」


バルドに向かって酒を浴びせる貴族、さらりと躱すバルド。酒がかかった床が変色している。


容易く本性を現す貴族達。猫をかぶることもできないのだろうか。


「話はそれまでだな。その酒の中身については後ほど調査が入るだろう。」


さっと顔色が変わる貴族達。調べるまでもなさそうだ。


「ほう? 旨そうな酒ではないか? 銘は何と言う?」


アイリーンも近寄ってきた。


「ボ、ボルドラの二十年、物です……」


「ほう? それはそれは。良い酒を持ち込んでくれたものよ。溢してはもったいないな。よしお前、飲んでみよ。」


「なっ! でん!」


そう言うと、アイリーンはその貴族の後頭部を鷲掴みにして床に顔から叩きつけた。煌びやかなドレスから伸びる白く細い腕。なのに恐るべき剛力である。


「ほうら? しっかり舐めるんだよ! 舌を伸ばして! しっかりとなぁ!」


恐らく舐めるまでもなく、顔に付着した酒が貴族の顔を侵食する。


「ぎあっ、いあっど」


「おやぁ? おかしいな? なぜ酒を飲んで肌が爛れるのだぁ? お前達も飲んでみるか!」


「ち、ちがっ!」

「そ、そやつが勝手に!」

「われ、らは、なに、も!」

「ご、誤解です!」


逃げ出そうとする貴族達。しかしその後ろにはバルドがいる。


「生きる道を教えて欲しいと言ったな。簡単だ。俺を倒せばここから出られるぞ。自らの力で道を拓くがいい。」


「おのっれ! 剣奴めが!」

「調子に乗りおって! もはや勘弁ならん!」

「我ら四人を相手に勝てるつもりか!」

「死ねい! 野良犬めが!」


四人の貴族が剣を抜くと、周囲では呼応するかのように若い男性貴族達が立ち上がった。


参加者のおよそ二割が抜剣し、バルドをとり囲もうとしている。これにはシンクレアも黙っておれず、十名ほどの女性貴族を引き連れアイリーンの側に控えた。


パーティー会場は真っ二つに分かれ、今にも戦いが始まろうとしている。

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