第16話 新たなる王国の誕生

睨み合う両陣営。国王やその他の重臣達は傍観している。


「陛下……よろしいので?」


「よいはずがあるまい。だが王国の将来を担うのはあやつらだ。傍観するしかあるまいよ。もっとも、勝敗は見えておるがな。」


「……御意……」


「まったく……愚かな奴らよ……」


国王の言葉は果たしてどちら側に向けられたものなのだろうか。




「殿下! 最後の慈悲です! 我ら伝統貴族から婿を選ぶとお言いください!」

「そうです! 国が割れますぞ!」

「お世継ぎのことをお考えください!」

「このままでは賎民の子が時期国王となってしまうのですぞ!」


剣を抜き、思ってもいないことを言う貴族達。確かに彼らの言うことは正論だ。例え百年に満たぬ歴史しか持たないメリケイン王国だろうとも、王の血筋は国を治める上で寄って立つものであろう。高貴な血筋を繋いでいくことは国家の存亡に関わって当然である。

しかし、彼らの根底にあるものは自分こそが王配となり、この国を支配すること。それだけなのだ。常日頃それが言動に透けて見えているため、アイリーンはもちろん、シンクレアにも相手にされていないのだ。いや、むしろ粛清の対象として注視されていると言ってもいい。


戦乱の世にあって国を支配することにしか頭が回らないような貴族は百害あって一利なしである。この度のパーティーは無能な貴族を早めに根絶やしにしたいホプキンス侯爵や、アイリーンの幸せと国防を両立したいシンクレアにとっては絶好の機会だった。よくぞこうまで簡単に暴発してくれたものだと思っていることだろう。


「お前達! 妾に向かって剣を抜いたな! せめてもの慈悲だ! 妾とバルドの二人だけで相手をしてやろう! 覚悟を決めてかかってくるがいい!」


相手の人数はざっと四十人。中には剣ではなく杖を向けている者もいる。


「殿下! お気は確かですか! 我らは皆本気ですぞ!」

「それを二人で相手するなどと! 命を大切になされませ!」

「唯一のお世継ぎである殿下には手出し出来ぬと高を括っておられるのですか!」

「ならば是非もなし! 殿下お覚悟!」


「さっさと来い! 魔法を使っても構わん! いくぞバルド!」

「おう!」


氷壁グレィスミュール


シンクレアは剣を抜いている者と傍観する者との間を隔てるよう壁を作った。それ以上は手出しをする気はないようだ。


アイリーンは先頭に立ち片っ端から斬り捨てている。

バルドは放たれた魔法を斬り裂くことでアイリーンを守っている。




敵対する貴族はたちまち半分に減った。そして早々に士気を失くしてしまっていた。


「そ、そんな……我ら伝統貴族が……」

「カルノ様、カルノ様は何をされているのだ……!」

「我ら無くして王国に未来はないぞ!」

「重臣の方々! これでいいのか! 野良犬の下につくのか!」


国王を含む重臣達から返事はない。


「陛下! いいのですか! 王国の未来は!」

「陛下の孫に賎民の血が混じるのですぞ!」

「陛下! 何とかおっしゃってください!」

「このままでは! 我ら伝統貴族の支持を失いまっ」


「うるさい、死ね。」


背中をざっくりと斬られて倒れ伏す貴族。アイリーンの仕業だ。


「お待っ」「たすっ」「違っ」


それ以外の貴族もバルドによって斬り捨てられた。


「この場にいる全ての者に言っておく。先ほど忠誠を誓ったばかりなのに反旗を翻した愚か者どもは死んだ。この国は妾が治める! 確かにバルドはまだ王の器ではない! だがそれがどうした! 戦乱の世ぞ! 強き者が国を治めずしてどうする! つまらぬ権謀術数で国が守れるか! 父上! そして重臣達よ! 異存はあるまいな!」


「あるわけなかろう……」


国王はため息をついていた。


「殿下、どこまでも付いて行きます。」


やはりシンクレアは率先して跪いている。やはり後に倣うように次々と人が傅く。つい先ほど見たような光景だ。


「アイリーン、見事な剣筋だった。俺はそんなアイリーンが誇らしい。」


「バルド、そなたこそすっかり魔法を斬れるようになってしまったな。シンクレアとの特訓は妬ましかったぞ? だが、妾にも出来ぬことを成し得たそなたこそ誇らしい。」


「アイリーン……ついに……」


「バルド……今宵、ついに妾はそなたに……」


これまで手を繋ぐことしかしてなかった二人。ことさら順序にこだわったわけではない。ただバルドは無知だし、アイリーンは純情なのだ。つまり、二人ともかなりの奥手と言える。そんな二人にシンクレアとロザリタは教育を施した。夫婦たるもの、如何にして子供を作るのか。これも本来なら王族教育の一環であるはずなのに、アイリーンは純情すぎるが故に逃げていた面もある。そもそも父である国王はおろか、乳母や教育係の言うことすら聞かなかったのだ。とんだおてんば王女である。


今は亡き母の言うことしか聞かなかったアイリーンの手綱を、バルドは御することができるのだろうか。二人を邪魔するものはもう、いないのだ。

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