第12話 王宮への道

「バルドロウ! 行くわよ! 心の準備はいいわね!?」


「ああ。大丈夫だ。シンクレア嬢、今日まで本当にありがとう。必ずやあなたの期待に応えて見せる!」


「ええ、あなたならできるわ。ではあちらに乗りなさい。」


「ああ、ありがとう。」


バルド、シンクレア、ロザリタ、セバスティアーノ。全員が別々の馬車に乗る。侯爵家を出発した馬車は総勢十五台。周りを囲む護衛はおよそ五十人。厳戒態勢である。


ここまで警戒していれば大丈夫だろうか。


そんなはずがない。早速お出ましのようだ。前方から装甲に覆われた馬車がやってくる。タイミングを合わせて後ろからもだ。全く避ける気がないようで速度を上げて突っ込んでくる。侯爵家の先頭の馬車を跳ね飛ばし、二台目と衝突し共倒れとなった。後ろから襲ってきた方は護衛に馬を狙われてあらぬ方向の壁に激突した。

しかし戦いはそこからだ。倒れた馬車から、物陰から、わらわらと武器を持った人間が現れた。服装だけで判断するなら路地裏にたむろしてそうな小汚い風体をしている。


「馬車に近寄らせるな!」


セバスティアーノの指示が飛ぶ。次々に斬り捨てられる敵。逃げ惑いながらも何かを馬車に投げつけている者もいる。酷い匂いを発している。


水壁アクアミュール


長大な水の壁に遮られ馬車は無事だ。その大量の水が崩れ落ち、そのまま彼らを襲う。


「掃討せよ!」


今度はシンクレアの声がかかる。どうやら彼女の魔法だったらしい。


「お嬢様、何人か生かしておきますか?」


「無用じゃ。全員殺せ。どうせ何も知らぬ末端よ。」


「御意。」


改めてセバスティアーノが指示を出す。水に飲まれて動けない敵の首を次々と刎ねていく。


五分後、現場に全ての首を並べてから一行は出発した。護衛の者が二人ほど事情を説明するためその場に残るのみだった。


ちなみに、奴らが投げつけてきた物は糞尿を丸めた泥団子だった。目的は一つ。そのような物で馬車を汚し、王宮に立ち入る資格なしと糾弾するつもりだったのだろう。貴族にしては知恵が回る敵もいたものだ。とっさにシンクレアが魔法を使わなければ危なかったことだろう。




どうにか馬車は王宮の門をくぐったが、まだまだ気が抜けない一日になりそうである。




控え室に案内され一息つく一行。


「よし、荷物も無事ね。ではバルドロウ、着替えてもらうわ。ロザリタ!」


「はい、バルドロウ殿。こちらへ。」


「ああ、頼む。」


シンクレア達が見守る中、着替えを始めるバルド。この日のために特注した礼服である。




「困ります! 立ち入らないでください!」


セバスティアーノの声だ。そんな制止の声を無視してズカズカと部屋に入って来たのはどこかで見た顔だった。


「貴様ごとき野良犬が……薄汚い足で王宮を闊歩するなど!」

「身なりだけをいくら整えたところで、染み付いた臭いはとれぬのだ! おお臭い!」

「最後の忠告だ! 見たこともないような大金をくれてやる! 歩けるうちにさっさと出て行け!」


いつもの無表情で三人の若い貴族を見下ろすバルド。


「消えろ下郎。」


歯牙にも掛けぬ言い草だった。


「貴っ様ぁ! 殿下の威光をいいことに! 調子に乗りおって!」

「どうあっても退かぬのだな! ならば無事に帰れるなどと思わぬことだ!」

「このような野良犬と血を結ぶとは……殿下は錯乱されておるのか!」


「セバスティアーノ! 殿下とバルドロウ殿に対して不敬があった! 王国貴族として看過できぬ! 斬れ!」


突然シンクレアの声が響いた。バルドしか見ていなかった三人は自分達の発言の危うさなど気にもしていなかったのだろう。


そして……もう遅い……


「いやっ、違っ!」

「私はシンクレア様に、そのっ!」

「ただ王国貴族と、して、王家のために!」


「待て。」


剣を抜こうとするセバスティアーノをバルドが制する。一瞬安堵の表情を浮かべる三人。


「俺が斬る。」


「そんっだ」「待っと」「違っな」


バルドの発言から二秒と経たずに三人の首が飛んだ。控え室に血が飛び散るが、バルドの剣と礼服に一切の汚れはない。


「問題あるか?」


「ないわ。見事な剣筋ね。惚れ惚れするわ……」


飛び散る鮮血をうっとりと見つめるシンクレア。なお、その三人に付き従っていた護衛はセバスティアーノが既に斬っていた。


「セバスティアーノ。王宮内の騎士を呼んでくるのだ。狼藉者の首をバルドロウ殿が自ら刎ねたと伝えよ。」


「御意。」


「ロザリタはこやつらの首を控え室に届けてやれ。一言、侯爵家は受けて立つ。そう伝えておくの忘れるな。」


「御意にございます。」


「ではバルドロウ、着替えの続きを。妾が手伝おう。」


「ああ、頼む。それにしても仕立て服というものは凄いんだな。恐ろしく腕が走った。肩周りも軽い。」


「職人の腕次第ね。しかしまさか、そんな格好でも剣を振るえるとは。」


今のバルドの格好は下半身は下着のみ。上半身はシャツとジャケットに袖を通しているだけの状態だった。


斯くして、王女アイリーンを巡る争いは始まった。戯れにアイリーンが言ったセリフ『鮮血のバージンロード』が現実となるのだろうか。

まだ、パーティーは始まっていない……

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