#12 救世主
自分もフラヴィアと同じように、売られた子供だった。
その事実に対する衝撃と電気ショックの衝撃で意識が飛びそうだ。目の前が霞んで、耳鳴りがする。オースティンは縛られながらも暴れ、苦しみに喘いだ。
「お前が戻ってきたということは返却されに来たと捉えていいだろう。だからお前はもうペルトリックの商品だ。」
「ぐっ…ち…違う…い、嫌だ!」
オースティンが苦しそうに反論すると、男はさもおかしそうに高々と笑った。
「お前は次の買い手が決まるまでこの部屋で縛られながら過ごすといい。好きに騒げ。誰も助けになんか来ないからな。」
そんなの嫌だ、と騒ぎたかったが力がでない。オースティンは激しい目眩に襲われた。まるで地球が自分を置き去りにしてぐるぐると回っているようだ。
「その歳からでまともな家庭に引き取ってもらえるなど不可能だぞ。」
次はどうやってオースティンを痛めつけようかと考えるように、男は髭を撫でる。
その時、勢いよくドアが開いた。
「大変です、」
げっそりとやつれ、疲れた顔をした、三十代前半くらいの若い男が現れた。その若い男はオースティンには聞こえない音量で白衣の男に何かを報告したようだ。
「何だと?!」
先程までオースティンを痛めつけていた髭の男は、身を翻して部屋から走って出ていった。
『それだけは、それだけは絶対にあってはならないのに…!!間に合うかっ…?!』
男の心の声が聞こえた。いったい何があったのだろうか。
オースティンは若い男と部屋に二人きりになった。気不味い空気が二人の間を流れる。
「おまえは、どうして戻ってきた?何が望みだ?」
髭の男よりもずっと暖かみのある声だ。 オースティンは深く考えず、思いつくままに言った。
「フラヴィアを守るため。…この組織を…ペルトリックをぶっ壊すため。」
痛みに叫びすぎたのか、情けない声しか出ない。でも、そんなオースティンの掠れた小さな声を若い男は聞き取ったようだ。
若い男さオースティンの元に近付くと、手足を拘束していた鉄の金具を取り外した。
訳が分からない。オースティンは唖然とした。どうして助けてくれるんだ?オースティンは咄嗟に相手の心を覗いた。
『こんなに大きくなって…一目見れて本当に良かった。…お前だけでもこの組織と関わらずに幸せに生きて欲しかったのに…!』
え?と、オースティンは目を見開いた。しかし、―もしかして…と考える間もなく、拘束が外されてもなお座ったままのオースティンを、若い男は引っ張って無理やり立たせた。
「おまえならこの組織を壊せる。後は託したぞ。」
男はオースティンにUSBメモリを渡した。
「ここに全てが詰まっている。これを警察に提出しなさい。」
同じように、オースティンにデータを渡したブライアンが脳裏で男と重なった。
「な、なんで!」
目まぐるしく変化する状況に理解が追いつかず、まともな言葉が出てこない。
「地下一階に通じる階段のすぐ隣の部屋にに例の少女がいる。その子を救いだして地上に上がって真っ直ぐ逃げろ。さぁ、早く!俺の嘘の報告がいつまで通じるか分からない。」
フラヴィアの場所を教えられて気を取り戻したオースティンは、ありがとうと叫ぶと地下一階に向かって駆け出した。
「大きく…なったな。」
男がそっと呟いた。
幸いにも若い男がついた嘘が、施設の職員をみな地下四階まで引き寄せているようで、あまり職員と遭遇することは無かった。
そしてやっとフラヴィアの閉じ込められている部屋に到達した。
ドアをこじ開けると、椅子に腰かけたフラヴィアが窓の外を泣きながら眺めていた。
「ラヴィ!」
「オースティン!」
そこから先のオースティンの記憶は途切れ途切れだった。螺旋階段を登って地上に上がった事より、そのまま警察署に行った事よりも、必死に走った時に繋いだフラヴィアの手の温もりだけがオースティンの記憶を渦巻いていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます