#3 読心術
なんでだよ。オースティンは頭を抱えた。なんであいつがあの場所にいるんだよ。
あの後どうやって帰ったのかは覚えていない。猛烈な渇きと倦怠感、吐き気に襲われたことだけしか記憶がなかった。
もしかしたらフラヴィアに介抱してもらったのかもしれないし、クスリをやったことを大人にチクられたかもしれない。場合によっては警察も。警察と考えて、へっと鼻で笑った。オースティンの曾祖父が警察署長だった影響あってか、家族や親戚はみんな警察官なのだ。
注射を打った腕を見た。内出血して少し腫れている。あーあ、なんで俺こんなことしてるんだっけ。オースティンの脳内に様々な記憶がリフレインする。
優秀な家族のなかで全てにおいて劣っていて何度も劣等感に苛まれてきた。家族なかで完全に浮いていて、その反発心から不良の道を選んだのだった。
オースティンは人の心が読める。なぜだかわからないが、相手に意識を集中させると心の中身を覗くことができるのだ。その力のせいで親からどう思われているか、苦い現実を知ってしまいとても辛かった。
学校にて、となりの席でフラヴィアは絵を描いている。オースティンは意を決して、心のなかを覗いた。
―え…?
フラヴィアの心のなかは実に奇妙だった。
何と書いてあるのかわからないが、大量の文字を背景にしてたったひと言、
「空は紫色。」
フラヴィアは空の絵を紫色で塗ってゆく。
オースティンは驚きを隠せなかった。今まで何人もの心の中を覗いてきたが、こんなに奇妙なのは初めてだ。
クラスで一番清楚な可愛い女子の心の中はオースティンも言わないほどの暴言で溢れていたし、真面目な歴史の先生はピンク色を背景にして卑猥なことばかり、尊敬していた両親からは嫌われていた。
母親が『産まなきゃ良かった』とか、父親が『一家の恥さらしだ』と自分のことを思っていると知ってからオースティンの人生はだいぶ変わった。
「お、お前」
「なぁに?」
手を止めてこちらを見る。
「放課後ちょっとあの場所に来い。」
フラヴィアはちょっと不思議そうな顔をしてきょとんとした後、にっこり笑って答えた。
「ん…うん、わかった。」
「お、お前さ、この前なんであの駐車場にいたんだよ?」
ソファーの上、フラヴィアの隣、沈黙に耐えかねてオースティンは口を開いた。
ぼーっと猫のステラを撫でたままフラヴィアは返事をする。
「お父さんが連れて行ってくれたの。私のお父さん、お医者さんなんだ。いつもいろんな所に私を連れてお出かけしてくれるの。」
あの集会の上では医者と製薬会社の食事会が行われていたらしく、フラヴィアと父はそこに出席していたらしい。
食事会に飽きたフラヴィアがビルの中を散歩していたところボロボロになったオースティンにであったと言った。
「医者か…すげぇな。あ、ありがとな、助けてくれて。」
きごちなく感謝を伝えるとフラヴィアはにっこりと微笑んだ。
「いいのよ、このくらい。お父さんが私にやってくれるみたいに手当てしただけだから。」
フラヴィアは体か弱いのか、しょっちゅう学校を休んでる。オースティンは間近でフラヴィアのガリガリの顔のせいで際立つ目、そしてその下のクマ、薄い体と骨々しい指を見てその弱さを実感した。
――待てよ
「お前の父さんは医者で、この前のビルで食事会してたのか?」
「うん。そうだよ。処置もできるけど主に薬の開発をしてるの。色々実験して研究室にこもっててなかなか出てこないのよね。」
オースティンの脳裏にあの日のブライアンの言葉が蘇る。
『いろいろあってな、試作品のクスリがまわってきてんだよ。実験台の代わりにタダで。たしか上の階でパーティーやってる会社の奴だったけな。』
嫌な予感がオースティンの脳を満たしていった。
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