第74話「ワイラとの遭遇」
先行した部隊のおかげか、入り口の鍵はかかってなかった。もっとも、鍵が閉まっていたところで扉を力づくでぶち破るだけなのだが。
「土偶が展示されているのは、2階のはず」
「寄り道せずに行きましょう」
修達は小声で行動方針を確認すると、入り口に入ってすぐの階段を上りだした。
階段を上り始めてすぐ、行き先から大きな物音が聞こえて来る。音は、人の叫び声や銃声、そして何かの金属音だ。
行き先で戦闘が行われているのを予想し、一行は先へと急ぐ。
「あれは!」
上の階にたどり着いた修達の目に飛び込んできたのは、5名ほどの警官が手にしたサブマシンガンや刀で、無数の外つ者と激戦を繰り広げている光景であった。
刀を手にした2名が前に立って壁を作り、後ろの3名がサブマシンガンで銃弾をまき散らし、数で勝る外つ者を良く防いでいる。
防いではいるのだが、防戦一方であり、その均衡は危ういものと見えた。もし、前衛のどちらかが倒れたり、銃弾が尽きたりしたら一挙にやられてしまうだろう。
この状況でも士気を保っていられる彼らは、武芸者としての腕前はまだ未熟であったとしても、一流の戦士であると言えよう。
「皆! 応援に来たぞ!」
「大久保さん!」
「よっしゃ! 持ちこたえろ!」
大久保は階段を上り切ると、即座に応援の声を上げながら銃弾を発射した。
先行部隊の抜刀隊の隊員達は喜びの声を上げる。これまでも十分な戦意を保っていたのだが、その声には更なる気合がこもっていた。そして、この状況でも余所見をせずに戦い続けられるのは大したものだ。
「二人が切り込む! 掩護しろ!」
大久保の合図の直後、修と千祝が手にした刀を振るいながら外つ者の群れに飛びこむ。
この場にいる外つ者は
「これで……終わりだ!」
数分もたたずに、修と千祝達は外つ者達を全滅させる。その様は最早戦いというよりも処理に近い。
「状況を教えろ!」
「はい! 我々の班は異常ありません! 先発の回収組は博物館の人間と怪我をして倒れていたところを発見したため、応急処置をして下の部屋に置いてきました。我々は土偶の部屋に向かう途中でしたが、外つ者の激しい抵抗に遭い先に進めなくなっていました。大久保さん達が来てくれなければどうなっていたことやら。そういえば科学博物館の方は大丈夫なんですか?」
「ああ。あっちも土偶の封印が解けて
正確には科学博物館の外つ者を倒したのは警備員の藤田なのだが、説明が複雑になるし不安をあたえてしまうため、大久保は端折って説明した。
抜刀隊の隊員達は歓声を上げた。修と千祝の武芸の腕前は知っており、二人が象級よりも上位種の
つまり、修と千祝が単独で上位種の外つ者を倒せるかは一抹の不安があったのだ。しかし、今それは解消されたのである。誤解なのだが。
「大体状況は分かった。各員装備の状態を確認しろ。武器の状態、弾数は把握したか? ……よし、いいなら先に進むぞ」
大久保は隊員達に指示をすると、準備の完了を見計らって前進開始の合図を出した。確実な勝利を信じ切っている仲間達を見ていると、全てを伝えていないことに対して罪悪感を感じたが、大久保はそれを押し殺して先頭に立つ。
「そういえば大久保さん」
「何ですか?」
「さっきの戦いで、思いっきり鉄砲の弾をばらまいてそこら中に穴が空いてますが、いいんですか?」
「構いません。どうせこの新館は本館と違って重要文化財じゃありませんから」
そういう問題ではないのだが、大久保はそう答えた。
他愛のない会話であったのだが、それだけに大久保の心のつかえは少し解消された。抜刀隊の隊員達も冗談を言う余裕のある大久保や修を見て、安心感から口元がほころんだ。
戦いには緊張感も大切であるが、張り詰めすぎるとかえって脆いものである。なので適度にほぐす必要があり、今の彼らの状態は丁度良いと言える。大久保は指揮官としての教育により、修は天性のものとしてこの集団の心理状態を適切にしたのだった。
「この次の区画が土偶の展示室なんですが、嫌な気配がしますね」
「ええ。この強い気配は間違いなく上位種の外つ者がいますね」
「運がいいわね。解放された外つ者がまだ移動していなくって。もし動き回られたらこれだけ広い建物だから探すのに一苦労だったわ」
「そうですね……あいつか!」
軽口を叩きながら進む一行の前に、外つ者の群れが姿を見せる。その奥には一際大きな化け物が鎮座していた。
奥に陣どる外つ者の姿は、牛を数回り大きくしたような巨躯に何本もの足を生やしており、その足にはそれぞれ巨大な一本の鉤爪を備えている。そして何を考えているのか判別のつかない表情をしているが、その身に纏う気はおぞましい邪悪な物であり、間違いなく巨悪であるという事は感じ取れた。
「これより討伐対象を、象級の外つ者、「ワイラ」と呼称する。各員、わいらへの道を切り拓き二人の戦闘を掩護せよ!」
「了解」
大久保の指示によりわいらとの戦闘の幕が切って落とされた。
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