第55話「逆襲」
迫りくる
何故計画通りに行かないのかは分からないので、退く判断はできない。完全に失敗しているなら退却した方がよいが、発射が何らかの事情により遅れているだけなら持ちこたえる必要がある為だ。
二人は寄り添い、お互いに連携しながら戦った。常に互いの背中を庇い合い、取り囲まれないように気を付けた。
ダイダラボッチに率いられることにより、統率が取れているとはいえ、外つ者達の連携は修達のそれには到底及ばない。そのため、完全に囲まれなければ何とか持ちこたえることが出来る。
しかし、何といっても数が多すぎる。いつの間にか回り込もうとする外つ者が現れるため、その度に修達は後退を余儀なくされる。
抵抗と後退を何度か繰り返していくうちに、これ以上下がることが許されない線まで後退していることに二人は気が付いた。これ以上退いては、大砲が発射されたとしても、外つ者が効果の範囲から逃れてしまうだろう。
(どうする? 退くか? 最後まで粘るか?)
修は心の中で問答した。退却すれば折角の作戦が台無しになるかもしれない。例えそれが破綻しかけているとしてもだ。しかし、成功に一縷の望みをかけて戦い続けた場合、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。そして、その時は自分だけでなく千祝も巻き込まれてしまうのだ。それだけは避けたい。
戦闘の最中ではあるが、修がちらりと千祝の方を見てみると千祝も修を見ていた。多分千祝も修と同じことを考えているのだろう。その眼は、修が決めた事なら何でも受け入れると言っていた。
(……俺は……!)
修が決断を下そうとしたその時だった。
外つ者達の集団の中央付近に轟音と爆風が発生し、その近くにいた外つ者達が木っ端みじんに吹き飛んだ。修達からある程度離れているためダメージはないが、内臓を直接揺さぶられている様な衝撃が体内に響く。1発だけでも凄まじいが、少し間を置いた後次々と後を追う様に降り注いでくる。
「作戦は成功のようね」
千祝が心なしか嬉しそうな声色で話しかけて来る。喜んではいるものの、それにかまけることなく目の前の外つ者に切り付け続けている。
結局自らの進退を決することが出来なかった修であるが、気分を切り替えて戦闘に集中することにした。悩むのは後で出来るが、戦って生き残らなければ悩むことも出来ない。
敵の大半は大砲が撃ち込まれている地域にいるため、みるみるうちに消滅していく。最終的な敵であるダイダラボッチはまだ大きなダメージが無いが、これも時間の問題である。修達は大砲の効果の範囲外の敵の処理を開始した。こいつらを片付けなければ本命に近づくことは適わない。
しかし、後退を繰り返していたため、今だに多くの敵が健在である。砲弾を全て撃ちきるまで数分間あるが、それまでに敵を全て処理しなければならないが、それが可能かは微妙なラインだ。いざとなったら敵が残っていても強行突破しなければならないことを二人は覚悟した。
「ようお二人さん。手が足りなさそうだな。助けに来たぞ」
修達の後方から大砲とは違う、高く響くような破裂音が連続で木霊した。それと同時に押し寄せてきていた外つ者達がバタバタと倒れていく。声の主は倒れた部下を連れて基地に戻っていた海兵隊の小隊長のマックイーンである。約束通り部下を引き連れて救援にやってきたのだ。
「遅いですよ。もう少し早く来てくれれば外つ者どもは大砲の効果範囲内に入ってたんですから」
「悪いな。これでも急いだんだ」
「分かってますよ。救援感謝します」
修は振り向くこともなく礼を言った。もちろん外つ者に対する攻撃の手は一切休めない。
「野郎ども! 最終弾弾着まで後ええと……」
「8分だ」
「おお、後8分だ! それまでに雑魚どもを片付けろ! そうしたらあそこにいる日本の侍たちがあのデカブツに止めを刺してくれる! かかれ!」
「「「イエッサー!」」」
マックイーンの指示に部下たちが威勢のいい返事をして戦闘を開始した。彼らはライフルや機関銃を装備しており、大量の弾丸が外つ者に向かって放たれた。しかも、ただ闇雲にばら撒くのではなく、その狙いは正確無比であり、効率的に外つ者達をミンチに変えていく。もっとも肉塊に変えたところで死亡した外つ者はすぐに霧になって消えてしまうのだが。
防衛隊の砲弾と海兵隊の銃弾、そして、修と千祝の刃によって外つ者の眷属達はそのほとんどが消滅していった。
「凄いな……」
「何が?」
「あの少年と少女だよ、まあ少年少女とか表現するには馬鹿でかいんだが」
「そうっすね」
「そんで、つい数時間前には、砲弾が遠くで落ちてたくらいでおっかなびっくりだったんだぞ、それが今じゃ間近で落ちても怯まずに戦い続けているんだ。成長が早すぎだろ」
「もうあなたじゃ適わないでしょうな」
「そうだな……ってお前誰だ?」
「昼に少しだけ会ったでしょ。大塚2尉といいます。特殊作戦隊の中条の同期で協力してます」
いつの間にかマックイーンのそばに大塚がやって来ていた。ちなみに大砲が撃ち終わる時間を教えたのも大塚である。
修たちが外つ者の眷属を処理し続ける間にも、大砲はダイダラボッチに降り注ぎ続けていた。
1発1発ではそこまで効果が無いが、直径155ミリの砲弾は100メートルを超える巨体にもダメージを蓄積していく。周囲で破裂した砲弾の破片も威力を発揮しているが、特に直接命中して体内に潜り込んで爆発した物は重傷を与えている。
ダイダラボッチは砲弾の効力圏内に完全に入り込んでしまっているため、身動きがとれなくなっている。それ故ダメージは蓄積し続けているので、このままいけば倒れるのは時間の問題かと思われた。倒れてしまえば後は頭部の弱点に切り込んで止めを刺すだけである。
「隊長! 奴が動きます!」
勝利を予感した時に、ダイダラボッチが身を屈め、足元の岩を手に取った。ダイダラボッチの巨体との比較で小石にしか見えないが、実際は戦車すら押しつぶされるような代物だ。
「各員、奴の投擲する岩に警戒しろ!」
マックイーンは部下に警戒の指示を与えた。指示を与えなくとも精鋭の部下達は、独自の判断で回避行動をとるだろうが念のためである。
これは苦し紛れの行動であり、例え多少海兵隊の隊員に被害が出たところで大砲と修達が残っている限り勝利は変わらない。
しかし、ダイダラボッチは予想外の行動にでた。
「馬鹿な! あそこまで届くのか!」
ダイダラボッチのとった行動、それは大砲を発射している陣地に向かって岩を投擲することであった。岩は数キロ飛翔していき、マックイーン達からは見えなくなる。大砲さえ潰してしまえば砲弾が止み、後は修達を直接倒せばいいという、ダイダラボッチの判断によるものだろう。そうなったら勝利は消えてしまうだろう。
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