第52話「ダイダラボッチとの戦い、緒戦」

 結局復活してしまったジェネラル級のもの、ダイダラボッチはその巨体の大半を未だに地面に埋もれさせていた。地表に出ている部分だけでマンション程の高さがある。


「もうだめです。一旦退いて助けを呼びましょう」


 防衛官の中条が、車に乗りながら修に呼びかける。確かに最早ここにいるメンバーだけで何とかなるとは思えない。揺れが収まっている今が逃げるチャンスである。


「いや。今がチャンスです。奴はまだ地面に埋まって自由に動けません」


「今なら頭部の弱点に攻撃するのが簡単そうね」


 修と千祝が口々に攻撃を主張する。確かに完全に自由を取り戻していない今が、最後のチャンスであるといえよう。これだけ恐ろしい相手に相対していながら、冷静に勝ち目を追求する二人に、中条と大久保は舌を巻いた。


 5年前にダイダラボッチを退治した経験がある武芸者である鞍馬の体験談によると、当時は多数の武芸者の犠牲を払いながら下半身を切り刻み、地に倒れ伏した瞬間に耳から侵入して脳を破壊して退治したという。


 当時は頭部を攻撃する機会を得るために非常に苦労したらしいが、今はその機会は無造作に目の前に放り出されている。


 それに、ダイダラボッチは往時の力を取り戻していないと中条は判断した。修達や警官の大久保にはダイダラボッチはただ巨大な存在であり、それがどれだけ大きいかは判別できなかったが、防衛官として目標との距離やその大きさを観測する訓練を積んでいる中条は違う。5年前に戦ったダイダラボッチは200メートルほどあったらしいが、今目の前にいるものは地面に埋まっている分を換算しても100メートル程度であろう。


 巨大すぎるのには間違いないが、完全に復活された後に戦うよりはましである。


「よし分かった。あまり効果がないとは思うが掩護する。奴に止めを刺してくれ」


 中条は運転席から降りて運転を大久保に代わると、車の荷台に据え付けられた銃に取りつく。


 銃は、12.7ミリの重機関銃で、世界大戦の頃から使われている信頼性の高いものだ。車両や航空機を撃破するために使用され、もし人間に対して使用したら肉塊にしてしまう事間違いない威力がある。


 中条は重機関銃をダイダラボッチの頭部に向け、射撃を開始した。


 修と千祝は中条の射撃を合図にダイダラボッチ向けて駆け出した。頭上を銃弾が飛び越えているがそんなことは全く気にしていなかった。銃火器の取り扱いは中条の本分である。その中条が誤射するなどとはまるで思っていなかったのだ。


 銃弾を受けたダイダラボッチは、着弾した部分から血を流しながらもあまりダメージを受けているようには見えなかった。ただ、痛みは一応感じているのか、少し顔をゆがませると、射撃を繰り返す中条の方を見て、辺りに落ちている石を拾うと中条めがけて放り投げた。


 巨人のダイダラボッチが手にすると小石に見えるが、実際は大人の大きさ程ある岩で、中条達の乗る車両後に対しても十分なダメージを与えられると見込まれる。ハンドルを握る大久保は車を急発進させて回避する。車はマックイーンの部隊が使用する海兵隊仕様の軍用車両で、警官の大久保には使い慣れないがまさに必死の思いで何とか運転している。


「ハァッ!」


 ダイダラボッチが中条達に気を取られている間に、修は地面に埋まったままのダイダラボッチの体に到達し、その喉元めがけて刀を深々と突きさした。十分な手ごたえがあり、ダイダラボッチが悲鳴を上げる。銃弾は効果が薄くても、やはり刀は効果があるらしい。


 修の攻撃に間髪を入れず千祝が修の背中を駆け上がり、高々と跳躍するとダイダラボッチの肩に飛び乗ると、うなじを深く切り付けた。


 ダイダラボッチは痛みに身をよじりながら二人を振り払おうと腕を無造作に振り回した。その腕の太さは人の胴体の何倍もあり、巨大なだけあってスピードは凄まじく、野牛の群れの突撃さながらである。しかし、修も千祝もその動きを冷静に見極め、宙を舞う羽根のごとく捉えさせることはなかった。


 回避行動のため、残念ながら千祝は振り落とされてしまったが、ダメージはなく息も上がっていない。


 二人は完全にダイダラボッチの動きを見極めており、翻弄されるダイダラボッチは体を地面から抜き出す余裕がない。このまま戦いを継続すればいずれは致命傷を与えられる。そのような希望が見えてきた瞬間の事である。


 ダイダラボッチの埋まる周辺の地面から、土煙を上げながら次々と何かが生えてきた。それは、ダイダラボッチのの眷属であるソルジャー級やナイト級の外つ者であり、その数はとても数えきれるものではなかった。


「くっ。近づけない……」


「もう無理だ。ひくぞ」


 ついさっきは、50体からの外つ者を屠った二人であったが、それは外つ者が洞窟の奥という進行方向が限定されていたためだ。このように野外で取り囲まれてしまっては同じように戦うことは出来ない。


「戻れ! 掩護する!」


 修達は敵に背を見せると一目散に退却した。敵に背を向けることの不安はあるが、中条の掩護があるのでそれを信用してスピードを重視した行動である。


 眷属達は二人に追いすがろうとするが、元々修達の方が足が速いし、中条の放つ銃弾が追って来る外つ者を薙ぎ払ったので追いつかれることは無かった。


 二人は無事に車の位置まで帰還し、中条の乗る車両の荷台に飛び乗る。修達に逃げられた外つ者の眷属達は、機関銃を警戒しながらゆっくりと迫ってくる。


「よし、退くぞ、半日あれば太刀花先生を呼ぶことも出来るし、入院している抜刀隊も何とか駆り出せるはずです」


「待ってください。今退くと奴らがどこに向かって、どれだけ被害が出るか分かりませんよ」


「中条さん。今みたいな機関銃は下っ端の外つ者に効くのね」


「ああ。だからこれからマックイーン中尉の部隊の主力がいるキャンプ富士に行って、武装を整えれば奴らを抑えられるかもしれない。数が出現している程度なら、だが……」


 中条の言葉は少し歯切れが悪かった。対処できるという確証がないためだろう。


 修はどのようにすれば被害を抑えて、外つ者に対処できるかを考える。こうしている間にも外つ者の眷属はゆっくりと迫ってきており、迅速な判断が要求される。


「よし! 今から言う通りに皆行動してくれ! まずマックイーンさんは怪我をした人たちを連れて基地に戻って応援を連れてきてください!」


「分かった。すぐに戻るから気をつけろよ」


 腹を決めた修は指示をはじめた。その自信に満ち溢れた言葉に、誰も反論しようなどとは思わずに聞き入れる。


「次に中条さんは、単独行動になりますが、バイクで今から言うところに行って応援を頼んできてください!」


「了解!」


 中条は修に更に細かい実施すべき事項を聞くと、少し驚いた顔をしたが荷台を降り、バイクに乗って出発した。


「最後に大久保さん。残りは奴らを引きつけながら移動しますよ」


「分かったがどこに行くんだ? 増援のいる米軍の基地か?」


「違いますよ。さっき行った大砲の弾着地ですよ」


 修は不敵に笑いながらそう言った。


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