第51話「巨人の目覚め」
修達が洞窟にたどりついた時、洞窟の入り口の周囲にはマックイーンの部下たちが倒れていた。争った様子は見られなかったが、一人残らず倒れている。
修達は全員、軍や警察、道場などで応急救護の心得があるので分散して対応にあたる。倒れている海兵隊員は皆一様に目立った外傷はない。幸い息があり、このままなら死に至ることはなさそうだ。
「お二人は洞窟を見張ってください。決して中に入らないように。残りでマックイーン中尉の部下を車に積みます。あのトラックの荷台にしましょう」
「分かりました。千祝行くぞ」
中条の指示で、それぞれの行動に移る。洞窟を中心に嫌な気配が漂ってきており、間違いなく危険が迫ってきている。修と千祝はそれぞれ刀を抜き放ち、洞窟の入り口を塞ぐように配置についた。
二人が洞窟の入り口に到着すると、すぐに危険が訪れる。洞窟の奥から
「どうせ外で戦うなら、槍とか長物を持ってくればよかったわね」
「しょうがないだろ。洞窟の中に突入することしか考えていなかったんだから」
判断ミスを嘆きながら二人は戦闘を開始した。
二人が言う通り、槍などの間合いが長い武器ならば、より有利に戦えるだろう。しかし、刀しか持たずとも戦況は有利に展開した。
入り口の広さから、外に出てこれる外つ者は同時に2体までであり、修と千祝の二人は同時に複数を相手にするようなことにはならなかった。そして、兵級の外つ者ではもはや二人に一対一では相手にならない。より上級の
「まだ救助に時間がかかりそうですか? もう五十体はやってますが、衰える気配がありません。一旦引くか突入してかたをつけるかしないといずれ押し切られます」
「あと二人で終わりだ。一分だけ待ってくれ。……突入出来るのか?」
「いけます。朝入った通り、洞窟内部は一本道で不意打ちは食らいません。相手の連携は悪いから後ろからサポートしてくれたら間違いなく最深部に行けます」
修は自信ありげに言った。こうしているあいだにも、二人は外つ者を処理していく。中条達は二人の実力を改めて目の当たりにして戦慄した。修の言っていることは自信過剰などではなく、実現可能なことだと思われた。
中条や大久保はそれぞれ学生時代に、柔道や剣道で全国大会に出場した経験のある剛の者である。それぞれの得意としている分野の試合なら良い勝負ができるはずだ。しかし、こと実戦にかけては修や千祝にはまるで及ばないことを見せつけられた。中条や大久保には、ここまで勇猛かつ冷静に戦闘を継続することはできない。必ずどこかで集中力が切れたり、隙を生じさせてしまうだろう。これが単に競技としての武道を練習してきた者と、生まれた頃から武の世界に身を浸してきた者の差なのだろう。
「よし、中条さんここは覚悟を決めて、もう一回奥を目指しましょう。封印の札もまだ予備があります。マックイーンさんは兵隊さんたちをつれて基地に帰ってもらってついでに助けを呼ぼう」
悩み顔の中条に大久保が提案する。確かに余力があるうちに反撃するのは良い判断だ。それに、対外つ者部隊であるマックイーンの小隊に所属しているのは、ここで倒れていた者だけではないため、増援にも期待が持てる。
「分かった。ここは気合を入れ直して、吶喊す……何だ? これは」
海兵隊員の救助が終わったあたりで覚悟を決めた中条が、反撃の宣言をしている最中にそれは起こった。
地響きが起こり、中条達は立っているのが困難になった。トラックの運転席に座ったマックイーンも、揺れがひどすぎて発進することが出来ない。
「これは、奥に行く必要が無くなったかもしれないわね」
「そうだな。あっちから来てくれたかもな。呼んでないけど」
修と千祝は腰を落として重心を保ち、揺れの中でも態勢を崩さず、洞窟への警戒を保ったままだった。幸い外つ者たちもこの揺れでは動けないのか、出現が一旦止まっている。
「一旦ここを引こう」
二人は死守していた洞窟の入り口を放棄すると、中条達のいる車両の方向に駆け出した。そして、何拍かしてから突如、大人を一掴みに出来るような巨大な手が洞窟の中から飛び出てきた。入り口にとどまっていたら二人はただでは済まなかったかもしれない。巨大な手にはちぎれた下級の外つ者の残骸が付着している。
入り口は手が出て来るのが精一杯の大きさだったが、巨大な手が暴れることによって入り口を中心に地割れが起こり、段々と広がっていった。
「結局復活してしまったな。ダイダラボッチが」
修達が車両の位置に到着する頃には、巨人の上半身が地上に出現しており、その姿は修が1週間前に夢で見たものと全く同じであった。
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