第48話「海兵隊員との決闘」
洞窟に潜り、
「この洞窟の外つ者は、俺達の小隊が任されたんだ。それを勝手に入り込むとはどういう了見だ」
彼は修達がこの洞窟の外つ者を倒してしまったことが不服らしい。
「マックイーン中尉。さっきから言っているように、この件は元々日本の防衛隊が対処する話だ。我々はあくまでその手伝いで、君の小隊の任務は監視にすぎない。つまり、彼らに文句をつける筋合いなどない」
「我々海兵隊が倒してしまっても構わんとも聞いてますがね」
「それは、手遅れになった場合の非常手段だ。計画通りならお前が出る幕はない」
米陸軍の少佐であるペリーと米海兵隊の中尉であるマックイーンは、見ている方がはらはらする強い口調で言い争っている。マックイーンは階級上、上の立場にあるはずのペリーに対してもかなり遠慮がない。これは陸軍と海兵隊で組織が違うことに起因しているのか、それともマックイーンの性格によるものかは分からないが、めんどくさいことになったから関わらないでおこうと修は思った。
「あの、俺達帰っていいで……」
「大体、日本の兵隊やポリスならともかく、何であんなガキどもに譲ってやらなきゃなんないんだ?」
さっさと帰ろうと思った修であったが、残念なことに矛先が向いてきた。そしてそのマックイーンの物言いは、修の癇に障るものであった。
「何がガキだこのチビ」
「……チッ」
マックイーンは横から入って来た修に何か言い返そうとしたが、修の体格に圧倒され押し黙ってしまう。マックイーンはアメリカ人らしく、通常の日本人よりは身長が高い。しかし、プロレスラーのような巨躯の修と比べては分が悪い。
「多少でかいからって調子に乗ってるところがガキなんだよ。戦士としてどれだけ場数を踏んでるかが重要なんだよ」
マックイーンは気を取り直したらしく、更に悪態をついてくる。当然これは修の態度を硬化させることに繋がってしまう。
「戦士としての場数? 言っておくがこっちは、不良の喧嘩から武芸者としての決闘、外つ者の退治まで十分実戦を潜り抜けてきたんだ。そっちがどんな経験をしているかは知らないが、そんな物言いをされる筋合いはないな」
「それがお前の言う実戦か? 俺が本物の実戦を教えてやろうか? そんな度胸はないだろうがな」
「へー。それじゃそのホンモノの実戦とやらを教えてもらいましょうかね」
売り言葉に買い言葉、あっという間に決闘をすることになってしまった。日米の軍人たちは困った顔をしている。当然こんな展開は彼らの望むところではないのだ。
「では勝負の方法を言うからよく聞けよ? もしかしたら勝負にすらならんかもしれんがな」
修は一人森の中を進んでいた。
米海兵隊の中尉であるマックイーンとの勝負の場に向かうためだ。
勝負をすることが決まった後、マックイーンから地図が渡されて勝負の場所と時間が指定された。ルールは指定された時期と場所で戦い、相手を倒したほうが勝ちである。また、時間までにたどり着けなかったら負けであるとも決められている。なお、決闘者が銃器や刃物を使用したり、故意に致命傷を負わせることは禁止となった。
マックイーンは先にバイクに乗って出発し、乗り物を持っていない修はこうして森の中を歩いている。千祝は中条やペリーと共に車で現地に向かった。
修は歩いているうちに冷静さを取り戻していた。あのような挑発に乗る必要などなく、言わせておけばよかったのだ。戦士としての優劣は、このような私闘だけで決まるものではないと今なら思う。とはいえ、戦いには胸が躍るのも事実であり、全力を尽くす所存だ。おそらく、お互いの全力を振り絞って戦えば、マックイーンとも分かり合えると信じている。
そして、冷静さを取り戻した頭で考えてみると、マックイーンの言っていた実戦についても予想がついてきた。修が今まで経験してきた戦いは、相手が不良であろうと、武芸者であろうと、はたまた怪物であっても、お互い正面から戦ういわば「よーいドン」で始まるものばかりであった。明確に違うのはついさっきの洞窟への侵入時の戦いくらいである。この戦いでは防衛官や警官である中条と大久保の協力が無ければ不意を打たれてたかもしれない。
軍人や警官にとっての敵兵や犯罪者との戦いでは、正々堂々になるとは限らない。つまりこれがマックイーンが修の経験をあざけった原因なのだろう。
このことから、マックイーンは森の中を進むときにゲリラ戦を仕掛けて来ると修は予想している。
修が昔見たアメリカの映画で、ベトナム戦争帰りの元特殊部隊の隊員が自分を追ってきた警官の集団を、森の中で散々な目に合わせて、「森では俺が法律だ」というようなセリフを言っている。これが、修の中のマックイーンの作戦のイメージだ。移動途中に戦いを仕掛けることは禁止されていないので、途中で仕留められてしまえば、自動的に負けてしまう。
以上の事から、修は警戒しながら森を進む。
「ここにもか……」
警戒の甲斐があって修はトラップを見つけた。地面の近くの低いところにワイヤーが張ってあり、うっかりそれに引っかかるとワイヤーに結ばれた警報装置から音が鳴るタイプのものだ。殺傷力はないが、敵に存在を感知されることは勝率を大きく下げることに直結するだろう。このような非殺傷タイプの罠をもう5つ見つけていた。
「これだけの罠を行く先々に仕掛けているってことは、俺の動きが読まれているってことか。さすがに海兵隊だけのことはあるな」
修はマックイーンの実力の一端を思い知り、半分警戒、半分賞賛の独り言をつぶやく。
実のところ、修が見つけてきた罠はマックイーンの仕掛けたものではなく、防衛隊が演習のために仕掛けていたものだった。さすがの海兵隊員といえどもこれだけの罠を、相手の移動経路まで予測して仕掛けることは出来ない。ただし、マックイーンは防衛隊の罠を利用することは念頭に置いていた。
トラップを回避しながら森を前進する修は、森の終わりが近づいて来ているのに気が付いた。事前に見た地図によれば、森を通り過ぎたところが決闘の場所となっていた。警戒しすぎて前進速度が遅れ、時間切れで負ける可能性もあったので、十分な余裕を持ってたどり着けたことは喜ぶべきことだろう。
予想していた森での不意打ちが無かったことに拍子抜けした修であったが、決闘の場に落とし穴が仕掛けられている可能性もある。さらに警戒心を強め、歩を進めることにした。トラップにさえ気をつければ、銃器を使えない軍人に武芸者が負ける要素は見当たらない。
しかし、勝利を確信し森を出た直後、天地を揺るがす轟音と地響きが修を襲った。
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