第47話「再封印」
修達一行は洞窟を進んで行った。先頭はフラッシュライトと拳銃を構えた中条が行き、その次に修、
戦闘力が上の修が先頭を行くべきと修と千祝は主張したが、RPGで言えば危機感知能力の高い盗賊やレンジャーが前後にいるようなものであると、中条は説明した。修達が知っているRPGは、戦士や勇者が先頭に配置されるものばかりだったので実感が湧かなかったが、一応納得はした。
洞窟は溶岩が固まってできたものであるが、中は意外なほど広い。狭くてまともに武器を振り回せない可能性を考慮して、脇差や短刀を持ってきたが、念のために持ってきた打刀を十分振るうことが出来そうだ。流石に手榴弾やロケットランチャーのような爆発する火器は使えないだろうが。
五年前にダイダラボッチを討伐した武芸者、鞍馬の証言によると、この洞窟の最深部に逃げ込み、そのまま封印されたとのことだ。ダイダラボッチは元々200メートルほどの巨体であったが、当時の武芸者達が多大な犠牲を払って撃破した時、小型化してこの洞窟に逃げ込んだのだ。
この洞窟は5分くらいで最深部に到達できるらしいのだが、今は
直線か緩やかなカーブが続いていた洞窟だったが、先が見えない鋭角な曲がり角に出くわした。先頭を行く中条は、歩くスピードを少し落として慎重さを増して前進を継続する。
「……フッ」
曲がり角に差し掛かった中条は、危険を感じて素早く行動を開始する。角を曲がると同時に静かな気合とともに手にしたライトを前方に強く突き出し、拳銃を突き付ける。
ライトに照らされた先には人間の大人と同程度の大きさの怪物が、中条の攻撃により態勢を崩しているのが見える。人間と同様2本の足と2本の腕の姿であるが、体毛はなく皮が骨に張り付いているような外見だ。ダイダラボッチの
修は隙を見逃さず、中条と入れ替わるように飛び出し、脇差を抜くと兵級の眷属の首を跳ね飛ばした。以前ヤトノカミの眷属と戦った経験があるため、この程度の相手が1体では相手にならない。首を失った胴体はその場に崩れ落ち、少しすると霧の様に消えていった。
敵を倒した一行は、再び中条を先頭に前進を再開する。敵がいることが判明したため、今までにも増して慎重に歩を進める。
眷属を倒した後、体感時間にして10分くらい進むと奥に大きな空間があるのが見えてきた。最深部は広くなっているとの情報が事前に入手出来ているので、終点だと予想できた。
ダイダラボッチが復活しているかも知れないので、一行の緊張度が一気に増大する。本当は姿を隠しながら進みたいところだが、身を隠すのに良さそうな物陰は見当たらず、光を消してしまっては何も見えないので堂々と進む。
広間の奥には小さな祠が設置されているのが見える。そして、その周辺には大小の影がうごめいているのが見て取れた。小さな影は先ほど倒した兵級の眷属、大きな影は兵級と同じ様な外見ながら三メートル近い大きさであり、それは
光が差し込んできたことに気が付いた外つ者達は、一斉に修達の方に注目し戦闘態勢を整えた。馬級の外つ者が人間には理解できない、言葉かどうかも分からない叫びを上げると、兵級の眷属達が突撃してきた。
中条は拳銃を片手で構えると、突撃してくる兵級の眷属にためらいなく発射した。先ほどの戦闘では、敵の仲間に気が付かれることを警戒して撃たなかったが、もう気にする必要はない。近くにいる方から順に3発づつ正確に銃弾を叩きこみ、合計3体の敵が地に伏す。兵級程度なら銃弾で止めをさすことが可能だ。
中条の射撃に引き続き、修と千祝が前に出て残りの兵級の首を獲る。手慣れたもので、相手はまともに対応することが出来なかった。最後尾を進んでいた大久保は、残る馬級の外つ者の頭部めがけ手裏剣を投擲、見事片方の目に命中した。この程度で止めをさすことは出来ないが、牽制には十分だった。兵級を全滅させたばかりの修と千祝が素早く駆け寄ると、それぞれが片方ずつ馬級の膝の部分を輪切りにする。すると、両足を失った馬級は地面に両手をつく態勢となった。
「首を落とすのにちょうどいい高さね」
物騒な事を口にした千祝は刀を高く掲げて、一気に振り下ろした。人間に比べるとかなりの太さを誇る馬級の首であったが、土壇場で斬首される罪人のごとく、ぽとりと落とされた。
確認できた外つ者を全滅させた修達は、他の敵がいないか辺りを警戒したが、追加の敵はいないことを確認できると一息ついた。
「あっけないもんだったな」
「あっけなく終わらせるために、こうして先行的にやって来たんですから当然ですよ。さて、封印を強める処置をしてしまいましょう」
大久保はバックから札を取り出すと、祠にペタリと張った。修にはそこらへんで普通に買えるお札との違いが分からないが、特別に作られたものだということだ。その証拠に札を張ると同時に、洞窟に満ちていた嫌な気配が存在などしていなかったかの如く雲散霧消した。
「ふう。終わりましたね。お二人の協力が無ければ、馬級相手にもっと苦戦していましたよ。ありがとうございます」
「いえいえ、師匠の言いつけですし、もう外つ者との戦いは運命だと思っていますから」
緊張の解けた一行は、会話を封じていたさっきまでと違って言葉が軽く飛び出て来る。入り口まで皆で軽口を叩きながら戻った。異界化していた往路と違って復路は5分程度に感じられた。
洞窟から出て、太陽の光を久しぶりに浴びた時、予期せぬ怒号が浴びせられた。
「お前ら。何を勝手に人の手柄を横取りしやがったんだ!」
怒声の主は、入る前には見かけなかった米兵であった。
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