第44話「外つ者解説」

 修は、防衛官の中条に対して、朝の夢の内容を詳しく話した。以前のヤトノカミ復活の前に見た夢の事もである。


「ふむ。それでは、夢で見た巨大な怪物は予知夢かもしれないから気を付けるべきだと、そういうことですね?」


「その通りです。なにぶん夢の話なので確実とは言えないのですが、この前みたいに何か起こる可能性もありますので」


 夢の話を根拠にして、れっきとした国の組織に危険を訴えるなど、受け入れられないかもしれないと修は危惧していたが、その心配は杞憂だったらしく、話を聞かされた中条は真剣な顔で思案している。まともに話を取り合ってくれそうなのは幸いであるが、それは危険が差し迫っている可能性が高いという、憂うべき事態でもある。


「実は、最近ものの活動が活発化していて、こちらでも警戒をしてましてね。お話にあったような巨大な外つ者に関しても、過去の資料や情報をあたってみましょう」


「どうもありがとうございます。こちらの周りで何か起きたら情報提供します。……ところで、そんなに外つ者の活動が活発化しているんですか? こちらとしては、この前の一件まで全然存在自体知らなかったんで違いが分からないんですが」


「ええ、そこら辺を説明しておきましょうか。上には許可を得ていますので、問題の無い範囲で教えましょう。先ず、活発化についてですが、五年前に外つ者が暴れていて、それが世間を騒がしていた怪事件の真相だというのはもうご存知ですね? 外つ者は定期的に活発化させるのですが、活発化のカギとなるのは外つ者に君臨するキング級の存在です。五年前の戦いで、当時の抜刀隊のような組織や武芸者達がこれの討伐に成功して活動は沈静化させることに成功しました。今までは王級の外つ者を倒せば数十年は活発化することはないと言われてきました。それなのに、最近の奴らの動きはあまりにも激しすぎるのです」


 中条の話は何となく修には合点がいった。師匠の太刀花則武が今、防衛隊の特殊部隊を連れてアメリカで訓練をして、部隊戦力化のための最終段階に入っているが、前回の戦いから五年間あったにしては悠長なことだと思っていたのだ。本来、今の期間はそれほど外つ者が大人しいはずなのであれば、このようなことはうなずける。


「そのような動きがあるから、警察も防衛隊も新しい部隊を作っていたんですね」


「そうです。ただ、警察は警察庁抜刀隊が全滅したとはいえ、OBや抜刀隊候補が生き残っていたので再建が早かったのですが、防衛隊にはそういうノウハウがなくて、太刀花先生の協力でやっと部隊の編制にこぎつけられたんですよ」


「それにしても、よくそんな特殊部隊に適した人を見つけられましたね」


「ああ。それは、米国では欧州の流れをくむ騎士の末裔だけでなく、米軍が元から外つ者対応にあたっていましたので、そのノウハウを導入したんですよ。これがなければ十年たっても無理だったかもしれません。とはいっても、まだまだ人材は不足しているので、隊員は随時募集中です。というわけで、是非鬼越君達が就職するときには防衛隊に来てもらいたいですね」


 説明に便乗して防衛隊に勧誘されてしまった。ちなみに、太刀花道場に来る前には防衛隊の中条と警察の大久保の間で、修の勧誘を抜け駆けしないように協定が結ばれていた。しかし、大久保が道場破りの青山を病院連れて行って不在にしているため、今の隙に勧誘してしまっているのだ。


「せっかくですが、そういう組織に入るんだったら、死んだ父さんの所属していた抜刀隊の方に興味がありますね」


「それに、修ちゃんは太刀花道場を継ぐことになるかもしれませんからね」


 中条にとっては残念な事ではあるが、修にとっては防衛隊に入ることはあまり興味がなかった。千祝ちいが便乗して何か言っているが、例え修と千祝が結婚したとしても道場を継ぐ優先順位は、千祝の弟の則真のりざねの方が高い。


「そうですか。それは残念です」


「あ。他に質問していいですか? 今話に出来てきた王級とか、前に倒したヤトノカミが将級だとか聞いてるんですが、よく知らないままなんですよね」


「いいですよ。保全上差支えの無い範囲でお話ししましょう」


 修の問いにより、中条は外つ者に関する解説がはじまった。


 中条によると外つ者とは、古来から人類に敵対してきた異形の怪物であり、奴らがどこから来るのかは今まで誰も突き止めたことが無いらしい。


 外つ者は、過去の戦いの経験からランク分けがされており、上から「キング級」、「ジェネラル級」、「ベヒモス級」、「ナイト級」、「シップ級」、「ソルジャー級」となっているという。これは、日本だけでなく世界各国の外つ者と戦う戦士たちはこの様に分類しているということだ。この前、修が倒したヤトノカミは巨大なものが将級、その眷属が兵級に分類されるということだ。


 外つ者はその出現と同時に周囲に結界のような物を展開するため、その中では方向感覚が狂ったり、電波が通常通りに飛ばない、常人では発狂する等の現象が起きるということだ。これが、警官や防衛官を単純に戦力として使えなことの原因だということだ。ただの警官や防衛官では気が狂ってしまうし、ミサイルなどの現代兵器は使用できないのだ。


 また、下級の外つ者はともかく上級の外つ者に対しては、単なる銃弾などの兵器の効果は薄く、傷ついたとしてもすぐに治ってしまうということだ。逆に効果があるのが刀等の古来からの武器であり、神聖な気を帯びていると言われているような物ほど効果が高いらしい。修がヤトノカミを討伐した時の剣は、「布津御霊剣ふつのみたまのつるぎ」という日本神話にも出て来る神剣であった。西洋においても教会で聖別された聖剣などが、現地の戦士達が外つ者と戦う時に使われているらしい。


 そして、外つ者の存在は一般には知らされていない。これは、修が先の戦いまでその存在を知らなかったことから分かる。外つ者は倒すと消えてしまうし、常人では遭遇した時に精神がもたない。存在は秘密にしておくのが良いというのが、各国の当局や対応してきた戦士達の総意ということだ。




 外つ者に関する情報を修達に解説し終えた中条は、他に要件が無いことを確認すると太刀花家を後にすることにした。夢に出てきた巨人の情報について分かったなら逐次連絡するとの約束と、会話秘匿機能のあるスマートホンを置いていった。


 この時、修達はもう問題を組織の大人達で解決してくれると安心しきっており、少し遅い夕食でクロケットを食べている頃には、外つ者に関することを頭の片隅に追いやっていた。

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