第43話「戦士の報酬(現生)」
道場破りの青山を病院に送ろうとした時、防衛隊の中条と警官の大久保が道場の中に入って来た。二人は修達に挨拶をしようとしたものの、無残な姿を晒す青山に驚き言葉を失った。
「どうも中条さん。朝連絡したばかりなのに早い対応ありがとうございます。それに、大久保さんも退院できたみたいでおめでとうございます」
大久保は退院したばかりなので、体のあちこちに包帯がまかれている。
「えーと、これは?」
「見ての通り、道場破りを撃退したところです。今タクシーを呼んで病院に届けるところなので、帰ってくるまで話はちょっと待ってくれませんか?」
「いや、ここは私が病院に連れて行こう。中条さんがいれば話を進められるからね」
青山は大久保が病院に連れていくことになった。修達は中条を母屋の客室に連れて行き、話をすることにした。
「さて、電話では、
そう言った中条は、テーブルに封筒を1つ修に差し出した。かなり分厚い物であり、しっかりと封がされている。
「開けてもいいですか?」
「どうぞ。中身を傷つけないように気をつけてください」
中条の承諾を得た修は、同席している千祝から鋏を受け取り、慎重に封を切った。
封筒に入っていたのは、札束であった。
「これは、また、見た目から予想はしていましたが、芸の無い直球の代物で」
「別にウケ狙いではありませんので。これは、先日の戦闘の報酬です」
「あれ? 私には?」
「太刀花千祝さんの分は、お父上の則武さんの報酬に合わせて支払っていますので、個別にはありません。もし、バラバラに欲しいのであれば則武さんと相談して決めて下さい」
千祝は少し不満そうな顔のままだが、報酬の支払いは規則らしいので、こればかりは仕方がない。そして、太刀花道場はそれほど多くの門下生を抱えている訳でもないのに、経済的に困っていなかった理由が判明した。太刀花則武は今まで外つ者と戦ってきた報酬を、国から受け取っていたのでかなりの金を持っていたのだ。太刀花家は東京都に隣接した都市に結構な広さの敷地を保有しており、加えて太刀花家の蔵には、かなりの価値があるはずの刀槍類や茶器等が転がっている。これらの税を払うのは臨時収入でもなければ困難であっただろう。
「いやー、今日二人病院送りにして、タクシー代で結構使っちゃってたから、助かるなあ。残り、何に使おうかな~」
「あの、ある程度、好きに使うのは構いませんが、この報酬には外つ者と戦うための装備に使う分も入ってますから、あまり考え無しに使うのは止めてくださいね」
高校生には過ぎた大金を手にして、ほくほく顔の修に中条が釘を刺した。
古来より侍に対する報酬は、主人に対する奉公に必要な必要経費、武具や家来の雇用まで含めたものであり、修に対する報酬もそのような考えを元に支払われているのだ。
「あ、でも装備に使う分って言っても、この前みたいに
布津御霊剣は
しかし、
「え?」
「ん?」
中条の反応はかんばしくなかった。
「何か問題あるんですか?」
「いやさ。布津御霊は国宝だから、あれを戦いのたびに借りるのは無理なんじゃないかと。この前の戦いの時に使ったのは、あくまでその場に置いてあったから、緊急避難的に使っただけで本来許可は下りないと思いますよ」
「自衛省の力とかで何とかならないんですか? 人間サイズならともかく、あんな何十メートルもある奴と戦う時は、布津御霊みたいな武器が欲しいですよ」
「国宝は、文科省の管轄だから、自衛省としては何とも言えませんねー」
「そんな、お役人みたいなこと言わないでくださいよ」
「いえいえ、私も役人ですから」
「えーとそれじゃ、そんな、サラリーマンじみたことを言わないでくださいよ」
「サラリーマンのサラリーとは、ローマ時代に兵士に対する報酬が、塩、つまりサラリーで支払われていたことが語源ですから、防衛官はまさにサラリーマンと言えるでしょうね」
修としては、何か誤魔化された気がするが、こういう理屈のコネ方は修がよくやるやり方なので、文句を言う事は自粛した。
「まあ、お役所とは縦割りではありますが、だからこそちゃんと系統に従って調整すればどうにかなるかもしれません。NSS(国家安全保障局)か、内局を通じて文科省の方に話をするようにしますから、あまり期待しないで待っててください」
「分かりました。当面は刀は蔵にある奴とかを使いますし、金がたまってきたら注文でもしようかと思います」
「ご理解いただいてありがたいです。さて、これから本題に入りたいと思います」
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