第2話 ユイカ・アレイスター
この迷いのダンジョンこと三級ダンジョンは、5つの階層に分かれており、下へいくほどモンスターも増えていく。
俺のお目当てのモンスターは3階層から下にしか現れないためそこまでの道中は、兵長ダイヤという鉱物を集める。
この鉱物は大きいもので約1万ルーペルほどで売れる。
だいたい今回の探索でこれの大きい塊を15個ほど集めるのがノルマである。
「さてとやりますか」
まずは拡張バックレベルSから鉱石メガネというアイテムを取り出し、これを使って兵長ダイヤを探していく。
拡張バックレベルSとは、見た目は普通のバックなのだが中は10畳ほどの広さのあるユニークアイテムである。
そしてしかも取り出したいものを使用者の意思から読み取って出してくれる超便利機能付き。
冒険者生活20年以上の俺の数少ないS級アイテムの一つである。
そしてもう一つ鉱石メガネとは、登録してある鉱石を赤く強調表示してくれるユニークアイテムで、特定の鉱石探しをする際にとても役立つ。
メガネを装着し、準備ができたので探していく。
兵長ダイヤはどの階層にもあるが、一応レア鉱石なので見つけるのにそれなりに苦労する。
「半日で終わるといいんだが……ん?」
メガネをかけてすぐに赤い強調表示が出た。
これはラッキー、幸先の良いスタートだ。
そう思って近づくと赤い強調表示のそばに大きな影が見える。
モンスターか?そう思って俺はバックから剣を出した。
近づいてみると人型のようにも見えてきた、人型のモンスターなんてこのダンジョンにいたか?
不審に思いメガネを外して肉眼で確認してみる。
「……人?」
恐る恐る近づき確認すると……やっぱり人だった。
マジかぁ多分これユイカさんだぁ。
ここのダンジョンに入ってる人間が半年の間で俺とユイカという人しかいない。
故にここにいる人はユイカという人物だけ、しっかし3日前に入ったのにまだいたのか。
まさかこの人も俺と同じタイプの人間か。
見ると寝ているようなので起こしてみることにした。
「すみません、ユイカ・アレイスターさんですよね?」
「んぁ……はい?」
肩を揺すりそう語りかけると薄く目を開けてユイカさんは俺の呼びかけに返答した。
起きてくれてよかった、ていうかなんでこんなところにいるんだ。
しかも寝てるし、聞きたいことは沢山あるけどまずはちゃんと起きてもらおう。
「私はタツベイ・マツモトと言います、立てますか?」
「え……立つ、わたしー、あ!」
そう言ってユイカさんは目を大きく開けて俺をしっかりと見た。
「あ、あなたは誰?ていうかここはどこ、まさかまた気絶……」
「すみません驚かせて、大丈夫モンスターはとりあえず近くにはいませんよ」
「え、あ、はい」
いかんな、何があったかは知らんが驚かさせてしまった。
確かに驚くよな、ダンジョンで気絶して起きたらこんなおっさんがいるんだ、俺がこの子だったら悲鳴あげてるもん。
「とりあえず何があったかお話をお伺いしてもよろしいですか?怪しいものではないので」
「え、はい」
俺がそう言うとユイカさんは頷き、立ち上がった。
立ち上がるとユイカさんはあたりを見渡し、ホッと一息つきこちらを見た。
「助けて頂きありがとうございます、私は駆け出し冒険者のユイカ・アレイスターと申します」
「やはり冒険者だったんですね」
「はい、今回が初めてのクエストでして」
意外ではなかった、なんとなくそうだろうなとは思っていたから驚きはしない。
でもだとしたら何故この子は1人なんだろうか。
基本初めてのダンジョンには先輩冒険者か同期の冒険者と行くものなのに、この子は一人。
なにか訳ありなのかもしれない、どうしたものか……。
「すみませんが仕事内容とかって聞いてもよろしいですか?」
「え、大したことないですよ、槍豚の捕獲です」
「あー槍豚ですか」
槍豚とは尻尾の先が槍のように尖っている豚の事である。
たしかこのダンジョンだと2階層くらいから出現する奴だったはず。
「はい、3日前にこのダンジョンに入って2階層まではすぐ行けたのですが、槍豚が思った以上に強くて……」
そう言ってユイカさんは下を向いて黙ってしまった。
なるほど、槍豚はそんなに強くないが初めてだとちょっと手強いかもな。
見たところ一人みたいだしここは手を貸すか、それに将来この子が有名になった時仕事をくれるかもしれないし、恩を売っとくのは悪くないな。
「話してくれてありがとうございます、状況はわかりました、それで私からの提案なのですが良かったらお手伝いさせてもらえないでしょうか?」
「え、いいんですか?」
「はい」
「ありがとうございます!」
俺が協力したいと伝えるとユイカさんは一瞬戸惑うも、満面の笑みで承諾してくれた。
別に恩を売ったからって絶対に返してほしいとかではなく、単にこれはお節介だ。
この歳になって結婚もしてなく子供もいないから、誰かの世話を焼くのはこんな時くらいしかできない。
だったらやろうとなってしまう。
この業界に20年もいたせいで、知識と経験だけはある。
だからこの知識と経験を未来を担う若者に授ける事がこれからの俺にできることなのだろう。
故に俺は手伝う事にしたのだ。
「いえいえ、私の目的地は3階層なのでそれまでの間で依頼を終わらせてしまいましょう」
「はい、よろしくお願いします!」
大変に元気がいい、というかハキハキしている。
あぁ若いっていいなぁ、なんかもう若い人と話せるだけでおじさん嬉しいよ。
ありがとねユイカさん。
いかんいかん、ちょっときもいぞこれは。
兎にも角にもこれで簡易的なパーティを3年ぶりに組むことなった。
柄にもなく緊張しそうである。
「さて行きますか」
「はい!よろしくお願いします!」
そして俺たちはダンジョンの奥へと進んだ。
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