第18話 戦いの結末

「俺の命は、あと二年……いや、もって一年だと思う。そもそもの身体が、君たち宿霊者とは違うからね。…ねえ、ザザ」


わりい、ラーマ。


「僕が死ぬ前に、死なないで。……今よりずっと強くなって、みんなを守ってね」


そりゃ無理な話だぜ。

お前ぐらい強い奴まで死んじまうような世界で、俺みたいな人間が生き永らえるなんて。


土台、無理な話だったんだ。


だから、最期に。

こいつだけ連れて行くから……後からゆっくり来いよ。


「全解放」


俺にしては、結構いい人生だったと思うけどよ。どうだラーマ、俺は……お前にとって、”殺す価値のある人間”になれたかな。


「……”炎熱爆雷”」




凄まじい轟音。

要塞全体を揺るがすその爆発音は、要塞中の兵士たちに、敵の侵入を悟らせるのには十分すぎた。


そして、この2人にも。


「今のは、ザザの……”炎熱爆雷” か!?バーブルとカーブルの狙いがあの2人っていうお前の読み、当たってたみたいだな!」


「ええ、そのようです。……ただ、さっきの爆発音…規模が大きすぎる!…ザザのやつ、まさか…!」


砂埃の舞う要塞の回廊を、直走りに走るラーマとスレイマン。

爆発の力から考えて、ザザとメフメト、2人は近くにいるはずだ。


「……見えた!2人とも、無事……か…」


うっそうと立ち込める土煙が晴れた時、ラーマの目に飛び込んできたのは。


仮面のせいで表情までは見れないが、俯いたままピクリとも動かないザザ。

そして彼の足元には、犬歯を剥き出してフーフーと肩で息をするバーブルの姿。


そして2人の足元には、木炭のような黒曜石のような、ドス黒い燃え滓が転がっていた。


「メフメト、一体何があったんだ!……ザザは、ザザはどうなった…!」


2人から少し離れたところ、瓦礫の崩落をギリギリで免れた地点で。

呆然と立ち尽くしている彼女は、目を見開いたまま動かない。


しかし、突然。

メフメトの目からすぅっと流れ出した涙の粒に、ラーマはギョッとして仰け反った。


「なっ、どうしたんだ……!おい、メフメト…!?」


その問いに、答えたのは。


未だ肩を震わせながら、口元を歪めて笑うバーブルだった。


「……ハハッ、ハハハ…無駄だよ……!その女は今、僕の宿霊術の副次効果を食らってるからね…!」


「お前がバーブル、か……副次効果だと…?」


ラーマの言葉に、バーブルはなおも得意げに続ける。


「ククク……分からないなら、見せてやるよ…!…ザザ、こいつらを殺せ!」


「…?……お前、気でも違えたのか?いったい何を——」


その瞬間。

スレイマンが、何かを叫びながら。


ドンッと、ラーマを突き飛ばした。


何が起きたのか分からず、ただ床を転がるラーマを背後で。


「宿霊術・炎熱爆雷」


先程と同等かそれ以上の、要塞全体を揺るがすほどの大爆発。


「……だ、団長…?」


ゆらめく黒煙の中から、姿を現したのは。

爆風でズタボロになった、スレイマンだった。


右目から口にかけては深度の火傷で筋肉質が見えかけており、右腕は豪火で焼き切られている。


「……炎系を吸収できる俺でも、これだ……あいつ…全解放しやがった…な……!」


その言葉を最後に、ドサリと崩れ落ちるスレイマン。

当然、生きているのが奇跡と言えるほどの重傷である。


全解放。

スレイマンの口から飛び出したその単語に、ラーマの肩がピクっと跳ねる。


全解放とは、宿霊者がとれる最後の手段。


およそ寿命にして十年分のエネルギーを、一瞬で燃やし尽くすことで成立する精霊との契約が全解放だ。

得られるパワーは、それこそ”六雄”に勝るとも劣らない。


「全解放……?…ああ、だからか…!…キキキッ、最高の状態で手に入れられたみたいだねえ!」


「……手に入れる、だと…?…お前、ザザに何をした!」


「僕の宿霊術、”仮面舞踏マスカレード”だよ…!能力は…対象に、”僕の傀儡になる”思念を固定できる!!」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。


バーブルの能力が、何かしらの精神感応的なものだとは思っていた。


しかし、傀儡とは。

バーブルの言ったことが本当なら、もう、ザザは。


「信じられないなら、ホラ……もう一発だ、ザザ!!」


吠えるようなバーブルの命令に対し、ザザはゆっくりと両手をこちらに掲げると。


「…宿霊術・炎熱爆雷」


咄嗟にスレイマンとメフメトを抱え、離脱しようとしたラーマに向けて。


無慈悲にも、再び。



空気を切り裂くザザの一撃が、炸裂した。











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