第15話 分岐点
「……これ、どっちか分かります?団長」
「…いや。こんな道、見取り図にも載っていない。…つまり、侵入者用の罠だ」
「ですよね……ザザ、空気の流れで何か分かるか?」
「いやぁ、そこまで便利なもんじゃねえよおぉ。俺の”空気操作”はぁぁ」
ザザの能力、”空気操作”。
本来なら砂埃や足音で気取られてしまうところを、彼の力でそれらを極力消しながらの隠密行動により、スレイマンを先頭とする四人は順調に要塞内部へと侵入し。
そして、とある地点で立ち尽くしていた。
先程スレイマンが述べた通り、内通者からの見取り図にも載っていない、対侵入者用の罠らしき”分かれ道”が四人の行方を阻んだのである。
まだこちらの存在を掴まれていない以上、間違った道には兵士が大量に待ち伏せ——そんなことはないだろう。
せいぜい、大量のトラップが待ち受けているか、常駐の宿霊者が2、3人といったところか。
ただ、分かれ道というものは何があるか分からない。
「……素直に分かれましょう。能力相性的に、俺は団長と。メフメトはザザと行ってくれ」
「待てラーマ。それだと、こちら側に戦力がかなり偏るぞ」
スレイマンの意見はもっともである。
たたそれ以上に、その人選で進まなかればいけない理由が、ラーマにはあった。
精霊と同調できるという彼自身の体質、それに付随した効果。
殺意や敵意に、常人より何倍も敏感なのである。
そして。
彼が選ぼうとしている右側通路からは、これまでにラーマが経験したことがないほどの、濃密な”殺意”が溢れていた。
「…感じるのか、ラーマ」
そう問うのは、彼を指導した経験もあるスレイマン。
その問いに、ラーマは冷や汗を浮かべながら頷く。
「……ええ、かなりキツいやつがいそうです。ですから、俺と団長はこちら側でいいかと。要塞の内部破壊は、ザザたちに任せましょう」
「…そうだな、わかった。よし、ここで二手に分かれよう。…ザザ、メフメト。”六雄”に接敵したときはどうするか、覚えているな?」
「戦うな、逃げろ。…ですよね」
「分かってますよおぉぉ、俺たちだって子供じゃぁねえんだぁぁ」
二人の言葉に、スレイマンはふっと口元を緩める。
彼からすれば、長く戦い方を教えてきたこの二人は、もう子供のようなものだ。
「なら、いい。……とにかく、死ぬなよ」
「はい、団長たちも。特に、ラーマ先輩に怪我させないようにお願いしますね」
「俺を何だと思ってるんだお前…」
そうして、分かれ道を行こうとしたその時。
スレイマンは不意に、ぞわりとした悪寒に襲われた。
何故だか、何故かはまるでわからない。
だが、ザザの背中に妙な感覚を。
もう二度と会えなくなるような、そんな感覚を覚えた彼は、咄嗟に彼を引き止めようと手を伸ばし——すぐにその手を引っ込めた。
ザザの言う通り、彼らはもう大人であり、解放軍の幹部。
並の七十二柱など比較にならないほどの、優秀な戦士たちだ。
まあ、余計な心配は無用か。
それよりも、ラーマが言っていたことが気になる。
それほどの存在が、この道の先にいるのだとしたら。
そうして、最後に言葉を交わさずに別れたことを。
スレイマンは、のちのち後悔することになる。
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