第14話 トロイの木馬

その日、コーサラ国北方戦線の要であるセヴァストーポリ要塞、その近辺に位置する大都市カイロにおいて。


解放軍の副団長・モハメド=アフマドを首謀者とする、大規模な武力蜂起が起きた。


彼らの多くは他国からの義勇兵などではあったものの、火薬を使用した新型の武器類を多く所持した厄介な部隊である。


今まで通りであれば、コーサラ国側もそれなりの対応を迫られていたであろう場面。


ただ、これがブラフであることは、対するセヴァストーポリ要塞側も薄々勘づいていた。


一つの大きなデコイを放って、精鋭で固められた別働隊が本命に襲いかかる。

解放軍の常套手段の一つであり、この数年間コーサラ国を苦しめてきた伝家の宝刀。


しかし、今回ばかりは。


セヴァストーポリ側は、どうせなら”破壊”のアフマドを討ち取ってしまえと言わんばかりに、カイロ鎮圧に七十二柱を大量投入した。


理由は、単純明快。


「どうせ、僕達に勝てるとか思っちゃってるんだよね。どっちが先にやる?カーブル」


「……どっちでもいいよ。めんどくさいもの。…バーブル、君が先にやりなよ」


セヴァストーポリ要塞の絶対的守護神、七十二柱”第二柱”カーブルと”第三柱”バーブルの存在である。


双子であるこの二人は、今年で十八歳と史上最年少の”六雄”。


その二人が守るセヴァストーポリは、今まで一度たりとも、第一の関門すら突破されたことがない。

まさに、鉄壁。


そんな難攻不落の砦に挑む解放軍の面々は、かなり人数を絞った少数精鋭である。


まず、ラーマとスレイマンが前衛。

中衛にザザと、最後尾に”水撃”のメフメト。


いずれも、解放軍の実力上位者たちだ。


特にメフメトは、この3年間で新たに仲間に加わった若き才能であり——。


「ラーマ先輩、お腹減ってませんか?喉は乾いていないですか?ちょっとザザさん、先輩に近づきすぎですよ離れてください!」


「五月蝿ええぇぇんだよぉぉぉ何目線なんだてめえはぁぁ」


かなりの、というか重度のラーマファンでもある。

女だてらに戦場に立つ理由は、まさにそこにあると本人は語る。


「……私が戦う理由ですか?……ラーマ先輩を一番近くで見ることができるのが、ここだったから。…でしょうか」


そう、この女気が狂っている。


「…お前ら、元気なのはいいけどな…もうすぐ時間だぞ。というか、こんな狭いところでよく喧嘩できるよな」


間近に木の匂いと馬車の振動を感じながら、どこからか聞こえて来るスレイマンの声に耳を傾ける。


四人がいるのは、単なる要塞付近の待機場所などではない。


「……そろそろ着きそうですね。準備しましょうか。…というか、よくこんな作戦思いつきましたね」


「アフマド考案だけどな。俺も最初は驚いたよ。……まさか——酒樽に紛れて近づくだなんてな」


そう、四人が潜んでいるのは。


セヴァストーポリ要塞の裏口、わずかな衛兵のみが待っている物資の搬入口を出入りする、隊商馬車の積荷。


理外の、トロイの木馬作戦である。






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