第4話 永久凍土
『真王の右腕』。
正体不明の僕の宿霊術に対し、目で見て分かるほど警戒していたザザは。
その姿を一目見た途端、堰を切ったように笑い出した。
目尻に涙を浮かべ、げっそりとこけた腹を抱えながら、彼は言う。
「……お前ぇ、そりゃあ『憑依型』じゃあねえかぁ!…クククッ、一番のハズレ能力かよ!ビビらせやがってこの餓鬼が!待ってろ、今丸焦げにしてやるよ!!」
突然のザザの豹変に驚いた僕の耳元で、襟からひょこりと顔を覗かせたリディナが口を開く。
「ラーマ様、今ご説明致しますので動きながらお聴きください。…宿霊術には、実はいくつかの種類があります」
その言葉に、僕の目は文字通り点になった。
だって、だってそんなの……
「何それ聞いてないよそんなの!!」
「忘れてたんですバタバタしてたから!……いいですか、まず一つ目からです。一つ目は『行使型』と言って、霊子には単純な命令しか下せない代わりに、効果範囲と持続力が増す傾向にあります。…ザザは、ここに当てはまりますね」
そこまで聞いてから、僕の頭にある一つの疑問が浮かぶ。
「じゃあさ、どうしてザザはおばさんに近づいてトドメを刺そうとしたの?…効果範囲が長いのなら、そもそも遠距離から攻撃していれば済んだんじゃ……」
僕のその言葉に、リディナな一瞬考える様子を見せると。
「恐らく、”黄金律”の関係でしょう。酸素や毒素など、人の生命に直接関係するものを操るには制限がある。……それを最もよく表しているのが、二つ目の『誓約型』になります」
「『誓約型』…ナムリおばさんの能力は、きっとそれに当てはまるんだね」
リディナはこくりと頷くと、さらに言葉を紡ぐ。
「その通りにございます。その名の通り彼らの宿霊術は、対象と自身との間に契約を発生させる特殊なものです。霊子に下す命令の複雑さ故、効果範囲や持続時間は短いことが多いのも特徴となります。……そして、先に挙げた二つよりさらに希少かつ特異な能力。それが『憑依型』なのです」
リディナのセリフをそこまで聞くと、ザザは再び張り裂けるような笑い声を上げた。
何がそこまで面白いのか、子供のように笑い転げるザザだったが、ひとしきり笑った後はむくりと身体を起こして口を開いた。
「…希少性、だけなぁ!『憑依型』なんてもんはよぉ、見た目ばっか派手で霊子を無駄遣いすっからなぁ。すぐ燃費切れ起こして役に立たねえって、王宮でも馬鹿にされてる奴が——」
「そう、それがこの世界の常識です。しかしザザ、あなたも知っているでしょう。かの英雄王エルラーマの宿霊術も、『憑依型』だったと」
「……てめえぇ、なんでそんな機密情報知ってんだよぉチビ助ぇぇぇ」
突然割り込んできたリディナに青筋を浮かべながらも、その言葉の真偽を確かめようと、ザザはゆっくりとこちらに一歩踏み出した。
否。
正確には、踏み出そうとした。
しかしその瞬間、ブーツが捉えた地面の感触、その奇妙さに。
ザザは、思わず後ろに仰け反って——そのまま転倒した。
「てめえぇ、この能力……冗談だろぉぉぉ」
もう少しだけ時間を稼いで、十分に”満ちた”ところで一撃で仕留めたかったが仕方ない。
ここからは、単純な宿霊者どうしの戦いだ。
僕の能力、その正体に気付いたらしいザザは、一瞬呆けたような表情を浮かべると。
すぐさま、焼け爛れたような笑みを浮かべた。
「そうかぁっ、”氷”だなぁ!!クククッ、つくづく運のねえ野郎だ!この”豪炎”のザザ様相手に、氷なんかが効くかよぉぉぉ!!行くぜぇっ、宿霊術『炎熱爆雷』ッッ!!」
戦闘開始から、早くも五分以上が経過した。
すでに周辺一帯はザザの宿霊術によって穴だらけの荒野と化し、辛うじてナムリおばさんと自分自身を守る以外に、今のところ僕には何もできていない。
思っていたよりも、ザザの能力が凄まじい。
こちらが氷で攻撃しようとしても、すぐさまあの爆破攻撃が飛んできて何もさせてもらえない。
しかし、この右腕。
能力使用中は普段動かせない僕自身の右腕が使用可能となり、その周辺に霊子でできた氷の鎧を纏うという『真王の右腕』。
一体の水素にとある操作を加えて氷を作り出せるこの能力、かなり強力ではあるが——それ故に、今日手に入れたばかりの僕には扱いが難しい能力だ。
誰がどう見ても、防戦一方のこの局面。
僕は、静かに。
勝ちを確信していた。
ザザは気づいていない。
僕の能力が、いったいどうやって氷を生み出しているのか。
そう。
奇しくも、僕たち二人は能力の使い方がまるで一緒だったんだ。
僕の能力、『真王の右腕』。
この腕の真の能力は、周辺にある水素の”分子運動を停止させる”。
そして、長時間腕の宝玉に霊子を貯蓄し、力を解放すれば。
その効果は五秒間だけ、周囲10メートルの生物、無生物を構成する分子にも無条件で作用する。
つまるところ、僕のこの右腕の真の能力は。
「……さようなら、ザザ。…宿霊術『永久凍土』」
時間停止。
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