第2話 瞳

来客…だろうか?


うつ伏せだった赤ん坊は、縁側でころりと半回転して仰向けになり、足先を握ってゆらり、ゆらりと体を揺らしている。天井に吊り下がっている電灯が気に入ったようだ。そちらをじいっと見つめて両手を伸ばしてパタパタと振っている。


誰が連れてきたのだろうか?


耳を澄まして玄関の様子を窺うが、なぜか誰の声もしない。見に行かなくても、ドアの向こう側から、暗くひんやりとした廊下の気配を感じる。風が木の葉をざわりと掻き立てる音とともに、窓から冷たい風が入ってきた。


そういえば父は仕事だし、母は近所の集まりに出かけている。窓から見える庭も空っぽで、いつも並んで停まっている車も、今はいない。母の小さな花壇には、白、黄色、ピンク、鮮やかな小さな花々が、背筋を伸ばして風に揺られていた。


改めて赤ん坊の方を見ると、相変わらず足先を掴んで電灯を見つめながらゆらゆらと揺れていた。


周りに赤ん坊がいたことがないから、この子がいくつなのかは皆目見当もつかない。生後数ヶ月といったところだろうか?まあるい顔に、短くてフワフワの茶色がかった髪。水色の繋ぎの洋服からは、何とも可愛らしい白くて小さな手と小さな足が覗いていた。


性別はどちらだろうか?


私は起き上がって赤ん坊の脇に座り込み、顔を覗き込んだ。すると、赤ん坊も私が見ていることに気が付いたようで、こちらをじぃと見つめ返す。


すると、長い睫毛に縁取られたその瞳は、私が今まで見たことがないような色をしていた。


宇宙的という言葉が適切かどうかわからない。ベースは深い濃紺で、桃色や薄紫の光が差し、瞬きをする度にキラキラと輝いている。瞳の奥深く、どこまでもその煌めく光景が広がっているように見えた。とても綺麗な宝石。


いつまでも眺めていたいような気がして、私は赤ん坊の横にそっと肘をついて寝転んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏背に光 @iruta-nabana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ