コント作ってくださいってお願いした

細胞国家君主

コント作ってくださいってお願いした

夕方。公園のベンチに二人、並んで座っている。

時折犬の散歩やジョギングの人が通りすぎる。


世良:……なあ。

子内:何?

世良:思いついたか?

子内:なあんも。

世良:だよなあ。

子内:ぁあ……。

世良:何なんよ、立体駐車場と接着剤をお題にコント考えろって。

子内:何も思いつかんのやったら下手に捻らなければええのにな。あるコント師が  

   車停めたあとなんかくっつけました言うてさ。

世良:……びっくりするぐらいおもんないな。

子内:……まあ、そうよなあ。

世良:作者あの野郎、勝手ばっか言いおってからに。俺らに丸投げやないかい。

子内:横暴なやっちゃよ。

世良:ほんとよ。君主だからって。


しばし沈黙。


子内:……ショートコント『接着剤』。

世良:おっ。



子内:『世良、やばいやばい助けて』

世良:『どしたん』

子内:『指くっついた』

世良:『は?』

子内:『接着剤で指くっついた』

世良:『まじか大丈夫……いやなんでお前指5本全部くっついてんねん!』

子内:『接着剤塗ってたら……』

世良:『普通親指と人差し指がくっつくいた、とかやんか。5本ともってお前どんな

    使い方しとんねん! もう気を付けしてる時の手になってしまっとるやん  

    か』

子内:『広い面に塗ろうと思ったのに、刷毛が無かったんよ。でもな、気づいたん

    よ。俺めっちゃ使いやすい刷毛、自前で持ってるやん、って』

世良:『いやそれ手! そりゃそんなふうなるわ。それが許されるのは小学生が図

    工で絵具使うときだけなんよ』

子内:『いやー、ナイスアイデア! と思ったんやけどなぁ』

世良:『思い立ったら一直線やな。もっと後先考えろって。

    そもそも何をくっつけようとしてたの子内は』

子内:『この看板なんやけど』

世良:『どこの看板?』

子内:『立体駐車場の案内の看板』



世良:……わりと無理矢理出してきたな。

子内:やっぱちょっと唐突かな。

世良:いや……、しょうがないやろ。もうちょっと考えてみよ。

子内:じゃ、続きからな。



子内:『この看板を設置する仕事任されてたんやけど、どうしようもう作業続けられ

    んやん』

世良:『いやそこ? 自分の指の心配せえよ』

子内:『だめ。もう剥がれん』

世良:『諦めるなって。俺も手伝ってやるから』

子内:『いや今それどうでもいいから。まずは俺に託された仕事をこなさないと』

世良:『なんかお前の真面目の概念ねじ曲がってないか?』

子内:『えっと、ひとまず残りはお前に任せて……』

世良:『さらっと俺の手まで刷毛にしようとすんなや!』

子内:『ええやん、フック船長みたいで』

世良:『ポジティブかよ。フック船長はかっこいいからええけども! 刷毛はかっ

    こよくないんよ。そもそも刷毛ですらねえ』

子内:『そうなん? でもフック船長だって結構便利にあのフック使ってると思うね

    んけどなぁ。ほら、自在鉤とか』

世良:『囲炉裏の上で鍋吊るすやつな? 確かに持ってられるかもしれんけど。お前

    は船長になんて仕事させるつもりや。船長には座っててもらえよ』

子内:『さすが船長や! 熱々の鍋も持っていられるなんて、やっぱり皆のリーダー

    に選ばれた男は違うな!』

世良:『そんな理由で慕われてたの⁉ 不憫すぎる……』

子内:『せや! もう俺らも右手に刷毛付けたら忘れることもなくなるんやない? 

    それで刷毛の要る仕事ならなんでも任せられると慕われて社長に推薦さ

    れ……』

世良:『そんなことでなれるかあ!』

子内:『だめ?』

世良:『だめ』

子内:『じゃあ、マジックハンドとかどうよ。あれ便利やん』

世良:『確かに……ってそれもう手じゃねえか! 接着剤取れ!』


おわり

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