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「お? うーん……こりゃあ、参った。参りました」

「えっ? でもここに桂馬とか置いたらさ」

「おー? いやあ、それは思いつかんだ。その時点で私の負けだ」

「じぃちゃん……」

「強くなったなとおる、初めて負けたよ。……はは」

「……ありがとう。僕も毎週こうやってじぃちゃんに鍛えられてるからね」

「ふ、言うようになったな。どれ、晩飯、食ってくか? おい、ばーさん――」

「いいよ、別に。昼、遅かったし、ウチで食べるから」

「そうか? おーい、さっきのは気にしないでくれ」

「すいません」

「透、本当はな、私は学生の頃、麻雀がやりたかったんだ」

「前も聞いたよ」

「ああ、何度でも言う。でも、麻雀は四人でやらんと楽しくないだろう? 三人ではだめだ。四人じゃないと」

「それで将棋?」

「そうだ。二人から始められるし、麻雀と違って運も絡まん。実力の世界だ」

「オセロやチェスとかは?」

「そんなもの私が学生だった頃には無かったよ。少し後でオセロは流行りはしたが、当時は将棋か麻雀の二択だった」

「へぇ」

「たまに麻雀をやる機会があったんだが、一人だけずば抜けて強い奴がいてな。あいつにだけは一度も勝てんかった。名前は……なんて言ったかな」

薮谷やぶたにさん?」

「そう! 薮谷だ! 悔しかったよ、どれだけ勉強しても……勝てなかった」

「勉強って、麻雀の?」

「当たり前だ」

「あまり誇るもんじゃないと思うけど、学生の頃でしょ?」

「誇って何が悪い。麻雀だって立派な頭の体操だ。待てよ、秀治しゅうじはどうした? 大きくなったか? 最近顔を見てないな。たまには連れて来てくれ、透」

「……分かってるよ。じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。あとコレ、置いてくね」

「秀治? また優勝したのか。強くなったな」

「……ありがとう。じゃ、また来るね、じぃちゃん」


「あら、秀治さん。もうお帰りですか?」

「はい。まだ昼ですけど、今日はこれで」

「またいらしてくださいね。秀治さんと会った日はいい表情してるんですよ」

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