ピープルカラー

みかろめ

帰り道

「よいしょー。お迎えありがと、センセ」

「先生はやめてくれ。学校じゃないんだから」

「エー、別にいいじゃん。半分はかずくんがワルいんだからね」

「や、この前許してくれただろ? こうやって家まで送ってるんだから」

「お母さんは勝手に許しちゃったけど、私はまだ許してないからね」

「まだそんなこと言ってんのか。もう子供じゃないんだから機嫌治してくれよ」

「あーぁ、サチやレーコとカフェとか行く約束してたのになァ。ケーキ食べ放題行きたかったなァ」

「そんなもん今度行けばいいだろ」

「ハァー!? ケガさせた本人がそんなこと言う?」

「分かった、分かった! なんなら買って帰るか? 寄ってくぞ」

「ぶー、しんゆーと一緒に食べることに意味があるんですぅー」

「いいか? 美雪みゆき、食いモンなんてな、腹に入りゃおんなじだ」

「はぁ、そんなんだから……」

「なんだよ?」

「べっつにー」

「…いいから、場所教えろよ」

「さっきの信号右」

「え!? 言ってくれよ」

「タイミング? …が悪いっていうか、ごめん」

「や、これくらいで謝んなよ。少し時間食うけど、欲しかったヤツ全部おごるから」

「いいの? 先生がじぇーけー連れまわして」

「……言い方、考えろよ」

「事実じゃん」

「いいだろ別に。校長にも許可取ってるし、親戚なのも事実だ」

「……ふーん、あ、次の信号左ね。そしたら見えてくると思う」

「おう」

「運転、うまくなったよね。ホント」

「そりゃ、二年、三年……アレ二年? だっけか。通勤に毎日乗ってりゃ慣れるさ」

「二年かァ。あと二年で私も教習所行かなきゃだー」

「なんだ、不安なのか? オレも最初は嫌だったけど、やってるうちに自然と体が慣れてくモンだ」

「それでもさー、なんてゆーか、最近コワいじゃん?」

「あー、煽りとか? あったよオレも。何が悪かったのか分かんねーけど、後ろからビカビカビカッて光らせてさ」

「ハァ? コワすぎない?」

「マーク付けてたし、無視してたらどっか行った」

「えぇ……」

「知らねーけど、だいたいそんなモンじゃねーの? テレビが大げさすぎんだよ。おっ、ここか」

「ホントにおごってくれるの?」

「2つまでな」

「えっ、さっきは全部って言った!」

「や、お前、あんなに小さいモンが五百円超えるって、詐欺だろ。一口じゃねーか」

「それだけおいしーからいいの!」

「はぁ、まぁいいや。で、どれがいいんだ? 買ってくる」

「チーズケーキ、ブルーベリーのヤツね。それと……」

「悩むんなら美樹江みきえさんの分にしたら?」

「お母さん? えーと、じゃあなんでもいいよ」

「お前なぁ」

「あっ!」

「えっ、どうした?」

「何でもないから、ホラ、早く買ってきて」

「お、おぅ」


「ほれ、買って来たぞ」

「ありがとー。……ん? なにこのイチゴのヤツ。3つあるよ」

「あー、それはオレんだ」

「えっ、自分の買ったの?」

「安かったし、なんだ、美味そうだったから」

「箱分けなよ。どうやって持って帰んの?」

「あ、やべ」

「和くんもそーとーうっかりさんだねェ」

「1個、取ってくれ」

「え、ココで食べる?」

「前赤だからいける」

「やめなよ。…手もベタベタになるからヤなんだけど」

「よし、箱ごとくれ。食うから」

「ヤだよ! 手ぇ当たってくずれたらどーすんの? 食べかす落とされるのもアレだし」

「いいじゃねーか、オレが出したんだし」

「そーゆーコト言ってるからフラれたんだよ!」

「やっ……」

「……ごめん」

「え、いやっ、え、分かる? 顔? 顔か? どんな顔してる、オレ?」

「違うよ、本人に聞いた」

「あー、里香りか? マジか」

「聞かなくても分かったけど」

「えー、でも、けっこう……リアルタイムでくるな」

「分かりやすかったよ。余裕で引くくらい授業の声小さかったし」

「そう、か? え、じゃあさかきにもバレてんのかなぁ」

「榊センセはどうか知らないけど、けっこーウワサになってたよ」

「マジ、かー。隠してたつもりなんだけどショック」

「だからケーキ多いんだ」

「やめてくれ。家に帰った後、一人で食べるんだぞ」

「ウチで食べればいいじゃん。誰も気にしないよ」

「そうしよっかな。泣けてくるわ」

「ちょっと、事故だけはしないでね」

「そんなことしたら泣きっ面に蜂だわ」

「……でさ、その、イチゴのヤツ。一個ちょーだい」

「は? 太るぞ?」

「しつれーな! 育ち盛りだからだいじょーぶだよ!」

「はは、そうかもな……ま、別にいいけど。ケーキ作った人も食いたいと思ってる人に食われてこそ本望だろ」

「ホント? ヤッタ! 前からソレも気になってたんだ~」

「ケーキ1つで幸せになれるなら安いモンだな」

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