第15話 本当の試練

 暗黒時代が終わり、ストレスから解放されたものの、ここからどうメンタルを回復していったらいいか不透明で見えない。

 カウンセリングはお金がかかるので、もう行かないと決めていた。

 気分転換に今度はマンガを描きだしてみた。

 時間が解決してくれるのではないかと思ったが、そんなことはなかった。

 鬱は治らず、部屋から出なくなったからか気分が沈み生きるのが辛くなる日が多くなった。

 何とかするため、本を買いに行った。

 まずは状態を把握するため、愛着障害についての本を買ってみた。

 ひどい鬱状態で読むのに苦労したけど、自分がどのタイプに当てはまるのかがわかった。

 愛着障害には不安型、回避型、恐れ・回避型があるようで、診断テストをしたら思った通り『恐れ・回避型』だった。

 人嫌いのくせに構って欲しい、面倒なタイプである。

 調べるワードが分かったので、ネットで検索をかけると解説動画などが出てきた。

 時代的に動画やサイトに良質なものが多かったので、参考になった。

 ある動画で「血塗れの状態で〜」という表現をしていて、そうなんだよ! それそれ! と心の中でつぶやいた。

 過干渉を受けてきた人なら感覚が分かる人もいるかもしれない。たくさん傷が入って、内側が血だらけになったような感じだ。

 しばらくネットを漁っていたのだけど、それだけでは回復は望めそうになかったので、ワークブックを買うことにした。

 そのワークブックを一通りやっていくと、うずくまっていたインナーチャイルド(傷ついた昔の自分)がちょっとずつ元気になってきた。最初は怯えていたけど、敵じゃないよと迎えに行ってあげると、警戒心をだんだん解いていった。

 療養の初期は感情が荒ぶって、抑えきれずに泣きながらものを蹴ったりクッションを殴ったりしていた。しかし、本当はものに当たるのは良くないので、良い子のみんなはマネしないでね。

 特に初期が一番苦しくて、自暴自棄になってやけ食いしたり、ひたすら涙が止まらなかったりした。自分の機嫌を取るために、よくコンビニのシュークリームを頬張っていた。

 体感的に、初期が一番エネルギーがいると感じる。が、一番初期が体調が悪くエネルギーがないため、しんどくてたまらなかった。本来は元気な状態でできるのが望ましいのだが、鬱がひどい中、無理やりやってたので、なかなかに辛かった。

 元気になったら、などと悠長にもしていられず強行した。これが良かったのかいまだに分からない。

 泥沼から浮上してくると、毒も薄くなってきて、血塗れの状態も癒えてきた。

 その次は、起き上がれない精神をどうしようかと暗闇を彷徨っていた。

 そんなところにカウンセラーさんのメルマガが参考になった。朝起きれたらインナーチャイルド(クッション)を抱いて「起きれたね! すごいね」と褒めるのだ。日常の小さなことができたら褒める。

 日常の些細な、こんなこと? と思うようなことができたらとにかく褒める。とにかく褒めちぎる。自然と自己肯定感が芽生えてきて、精神的に起き上がれるようになってきた。

 初めは、これで本当に精神の芽が出るの? と半信半疑だったけど、効果があって驚いた。

 よくよく考えると、アダルトチルドレンは親に褒めてもらったことがない。否定されたりすることが多い。

 私も褒められたことはないし、やりたいことはことごとく否定されてきた。おまけに初めから完璧を求められ、小さな成功に達成感を感じたことがない。

 


 この辺はうろ覚え。

 心の穴がどうも埋まらない。どうしたらいいのか分からない。そこで実践したのは以下のこと。

 ・自分の全てを受け入れるようにした。

 ・現状を把握して、等身大を受け入れるようにした。そして、自分をとにかく大事にした。

 ・やりたいことをやる

 ネットでよく「他人を大事にできる人は、自分を大事にしている」「他人に優しい人は、自分に優しい」などよく見かけた。

 自分を愛するということを実行するのは意外と難しい。見聞きすることと実際にやることは全く違う。

 自分のことは好きになれないし、ましてや愛することなどできない。相当ハードルの高いことだった。

 自分のためだ、やるしかない。

 できないなりに、クッションを抱いて「大好きだよ」と声かけるように心がけた。

 続けていくうちに、じょじょに風穴が埋まってきた。

 風穴が埋まってくると、いい意味でになった。無風の状態になり、自分も他人もどうでもいいと思えるようになった。

 この状態になるとだいぶ生きやすくなってくる。他人は他人、自分は自分。自分のペースで生きてていいと思えるとずいぶん楽になった。

 

 体調も解毒初期に比べれば楽になってきたけど、体調が比較的マシな日と酷い日がまるで躁鬱のようだった。

 回復に向かっていっているものの、しんどくて何もできないのに生きているのが嫌になって、突然涙が止まらなくなったこともある。

 メンタル回復の途中は先が見えず、これ以上回復しないんじゃないかと思い、時間とエネルギーをかけるのが虚しくなっていった。

 普通の人はこのエネルギー、時間、お金をスキルアップなど必要なことに使えているのに、治るかも分からないメンタルケアに、なんでこんなにも時間をかけなきゃいけないんだと悔しくなるときもあった。

 普通の人が羨ましい。純粋にそう思った。着々と自分の人生を歩めていて、対して自分は自分を救えてもいないし救えるかも分からない。恵まれ育ちになりたかったと心底思ったし、絶対に普通の人のようには生きていけないから、とてつもなく悲しくなった。

 

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