第1話 幼少期

 三歳ごろ

 

 どこかの部屋で絵を描いていた。何を描いていたか覚えていないけど、クレヨンで何かを描いていた。

 母が顔を出し、こちらを向いた。幼い私は愚かにも期待した。やっていることを褒めてくれる、肯定してくれると内心はしゃいだ。それはいとも簡単に裏切られた。

 あの人の顔は冷たく、嫌そうな顔をしていた。あの人が言ったのは「それがお金になるん?」だったと思う。

 その態度や言動を受け取った瞬間、『あ、この人は敵だ。この家は危ない』と悟った。

 そこから心を一切閉ざし、頭の中に閉じこもった。

 


 ある日、スーパーで思い切って他の人の所に走っていった。そして、連れ戻された。

 小さい子どもが親の元を離れ、違う親のところに行く。これを、親と離れてしまい困っている子と思う人の方が多いのだと思う。一般社会の、そういった風潮が悲しくて絶望した。

 警備員の人を見て、助けてくれないかと思ったけど、警察ではない。助けてくれるわけではないのだ。再び絶望した。

 警察の人いないかなと思ったけど、相手にしてもらえないと思ったし、なんて言えばいいのか分からなくて途方に暮れた。 

 子どもに逃げ場はないのだと察し、いじけて商品の陳列を整えていた。

 本格的に人生をあきらめたのは、このあたりからだった。

 親の隣に子どもがいれば、誰もが『仲のいい親子』だと疑わない。『子どもは親のそばにいるもので、それが安心安全だ』と信じて疑わない。子どもは親から逃げられないのだ。これが世の中の現状だ。

 逃げられなくて、悔しくて悔しくて仕方がなかった。人生の終わりを感じた。

 私の人生は三歳で一度終わった。


 

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