六景

ボレロ

公園

チェンが読書をしている

『銀河鉄道の夜』

悠がやってくる


チェン はぁい。

悠 こんばんは。

チェン よく見かけるわね。

悠 はぁ。

チェン 私はチェン。

悠 山田といいます。

チェン お話ししない? こっちにどうぞ。

悠 失礼します。

チェン 畏まらないでいいのよ。貴方はお気に入り? ここが。

悠 はい。よく来るので。

チェン 私も。つい最近彼氏から教えてもらったんだけど、独りでもくるようになりました。

悠 彼氏さんいらっしゃるんですね。

チェン いないように見える?

悠 みえないです。

チェン それでよろしい。

悠 銀河鉄道。

チェン 貴方も好き?

悠 とても。片想いしてるんですけど私。

チェン 告白したの?

悠 まだ。

チェン しちゃえよ。貴方ならいけるよ。

悠 でも、その人は別の人が好きで。

チェン なによ。貴方みたいな可愛い子、ほったらかして別の子に気を注ぐとは馬鹿な男。失敬しちゃうわ。

悠 そんなこといわないでください。憎たらしい女ですけど、いいところもあるんですから、好きになってもおかしくない。そう。そう。

チェン まあ。健気。青春だ。若いな。ふふ。

悠 大人になると違うんですか。

チェン そうね。そのままでいたかったけど、難しいなってため息出ちゃう。

悠 大変ですね。私、将来怖いです。

チェン でしょうね。私も昔そう思ってた。

悠 今、どうですか。怖いですか。

チェン 怖い。

悠 やっぱり。

チェン でも、しっかり此処まで。なんとか。生きてきたんだなって。誰かにハンコ押されて、君合格って言われた実感がある。

悠 それってどういうことですか。

チェン あんまり気分の良いものではないけれど、達成感がある。って感じ。

悠 なるほど。

チェン あなたからみてどう。私。

悠 とても素敵に見えます。

チェン そう教えてくれるあなたが素敵よ。私。もうすぐしたら死ぬの。

悠 年齢ですか。不幸な人生だったんですか。

チェン そうね。他人から見たらどうして不幸なのって言われるかもだけど、苦しくて赤い糸すりつぶしてしまった。私、お金持ってないし、ろくに働いてこなかったし、遊び人なの。彼氏もいっぱいいたわ。色々な人を知って、別れた。今の男は幼馴染で若い頃に付き合ってわかれたんだけど、再会して付き合ってるの。彼も不幸な男で、多分。死んじゃう。

悠 避けられないんですか。

チェン あなたも学んでるでしょ。この世界はこうやるしかなかった。そして生きていくことに懸命にならないやつに与えられた寿命よりも永く生きていける権利は与えられない。私は若さを無駄にしたけれど、後悔していない。実に苦しくて、不幸で、しんどかった。でも楽しい人生だった。

悠 悲しいです。辛いです。

チェン 私のこと、悲しんでくれるの。

悠 だって。みんな、幸せになってほしいの。

チェン 優しいのね。好きよ。あなたのこと。

悠 死なないで。長生きして。

チェン あなたは私の友達よ。出逢えてよかった。嬉しい。よかった。生きててよかった。


二人抱きしめ合う


暗転

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