炎陽の退魔師～炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る～

第33話 少年少女の奮闘

「そのままぶっ飛ばせ！」

　藻香が叫ぶと火狐は巨大な尻尾を鞭のようにしならせて敵のみぞおちに打ちつけた。フワフワしている見た目に反して尻尾の威力は高く、牙の鬼は腹を押さえて悶えている。

『がっは……！』

「今なら行ける！　壱尾（いちび）――狐火（きつねび）！！」

　藻香の指示を受け火狐の尻尾が燃え上がり勢いよく振うと、尻尾から炎の玉が放たれ牙の鬼に直撃した。

『ぐうおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！』

　先の符術の時とは異なり炎に包まれた牙の鬼から苦しみに満ちた絶叫が周囲に轟き、地面をのたうち回る。藻香はその様子を見て冷笑した。

「だから言ったでしょ？　とっとと私たちの前から消えろって。人の忠告を無視するからそうなるのよ」

　藻香はもう一体の鬼へ意識を向けると、そこではかなみと朝斗が符術を連発して足止めをしていた。

　二人が使用している護符は符術の威力が制限される授業用のもので、斧の鬼は全くダメージを受けていない。

　二人もそれは承知してはいたが、鬼の力が予想をはるかに上回っており自分たちとの間に大きな実力差がある事実を痛感していた。

「こんなに強いなんて――」

「こんな化け物を本当に倒せるのかよ！？」

　藻香が急いで二人のもとへ行こうとすると牙の鬼が火だるまになりながら立ち上がり彼女へ突っ込んで来た。

　藻香はそれを火狐の尻尾で薙ぎ払い、敵と距離を取る。

『この程度の攻撃で俺を殺れると思ったら大間違いだぞ、オンナァァァァァ！！』

「くそ、しぶといわね。早く二人の所へ行かないと――」

「きゃあああああああああ！！」

　しつこく肉薄してくる牙の鬼に苦戦していると背後からかなみの悲鳴が聞こえてくる。

　藻香が振り返ると符術の嵐を突破してきた鬼が斧を地面に振り下ろし、発生させた衝撃波でかなみと朝斗を吹き飛ばしていた。

「かなみ！　萩原！　逃げて！！」

　斧の鬼は二人よりも素早く、とても逃げ切れるものではない。　

　そんな事は藻香も分かってはいた。けれどこの状況下では、そう願う以外に仕方が無かったのである。

　その願い虚しく二人に接近する鬼が斧を大きく振り上げる。朝斗はかなみの前に出て盾代わりになろうと身構えていた。

「萩原！」

「女を守るのが男の務めだ！　やるなら俺からやれよ！　こんちくしょう！！」

『カッコいいじゃねえか、ガキ！　それなら望み通りにお前からドタマかち割ってやるぜ！　死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！』

　怒声と共に斧が朝斗の頭目がけて振り下ろされる。朝斗は恐怖のあまりに目を閉じてその瞬間を待った。

『ギイィィィィィィィィィィィン！！』

　金属と金属とが激しくぶつかる衝撃音が木霊する。朝斗が恐る恐る目を開けると、彼の目の前で漆黒の破魔装束を纏った人物が敵の斧を刀で受け止めていた。

　朝斗とかなみは敵の攻撃を受け止めた人物の後ろ姿に見覚えがあった。

「――燈火？」

「式守君……なの？」

「三人ともよく頑張ったな。もう大丈夫だから安心しろ。こいつらは俺が叩き潰す！！」

　燈火は敵に目を向けたまま、二体の鬼を相手に生き延びた藻香たちに労いの言葉を掛ける。

　その声は優しい響きで彼女らを安堵させる。その一方で敵に向けている眼光は鋭く殺気に満ちていた。