第20話 男女七歳にして席を同じうせず②

 任務に対して俺が気持ちを新たにしているとゆずりはさんが驚きの提案を述べた。


「あのう、任務の内容も考えて可能であれば、私もこちらでご厄介になりたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ええ、大丈夫ですよ。まだ空いている部屋もありますし、そうしていただけると私どもとしても安心できます。でも、そこまでしていただいてもよろしいのでしょうか?」


「問題ありません。よろしくお願いします」


 間髪入れずに吉乃さんが応対し、楪さんもこの家に住むのは問題ないようだ。けれど、どうして彼女がこのような申し出をしたのか分からない。

 俺が多悪霊荘たおれそうで寝泊まりをすると決定した時には彼女は既に住んでいる住居で生活を継続する予定だったのだが――。

 すると、訝しむ俺の様子に気が付いた楪さんが俺に耳打ちをしてきた。


「いいですか、燈火君。いくら吉乃さんがいると言っても、若い男女が一つ屋根の下で一緒に生活をするのは大問題です。ですから、間違いが起きないように私がお目付け役になります。いいですね? もしも、藻香さんにエッチなことをしたら黄龍斎様に報告しちゃいますからね」


 本日、女性二人目からのエッチ認定を頂いてしまった。どうやら、俺は楪さんに信用されていないようだ。

 護衛対象に手を出すなんてありえないだろうに。

 そう思いながら玉白に目をやると、彼女はテーブルの上に立派な胸を乗せて「ふぅ~」と一息ついており、パジャマから胸の谷間がどーんと姿を現している事に気が付く。


「わぁぁぁ!」


 思わず感嘆の声が漏れてしまった。うーん、この生活は確かに刺激が強いかもしれない。

 楪さんの言うように俺が自分を見失わないようにストッパー役が必要なのかもしれないな。

 そう思いながら、今度はストッパー楪さんを見やるとメイドタイプの破魔装束の胸元から彼女の大ボリュームの胸の谷間がこんにちはしている事に改めて気が付いた。


「うおっ! こっちも!」


 俺は慌てて楪さんからも視線を外した。これはまずいぞ。どうして、この人の破魔装束はこんなエロいデザインなんだよ。誰が許可を出したんだ!?

 その人物を殴ってやりたい気持ちと握手を交わしたい気持ちが同時に襲ってくる。

 今までも師匠や姉弟子と一緒の家屋で暮らしてはきたが、子供の頃からずっと一緒に居るので〝異性〟というよりは断然〝家族〟という感覚のため別に劣情は抱かない。

 だが、現在玉白と楪さんの両名に対しては恥ずかしながら女性として意識しまくりだ。

 このままここに留まるのは危険だ。こういう時は――。

 俺はおもむろに立ち上がり、谷間全開の二人を視界に収めないようにしながら撤退の意思を告げた。


「それでは、お休みなさい」


 そして、俺はそそくさと自分の部屋に戦術的撤退をしたのである。


 ――それから数時間が経過し、時計を見ると既に日付が変わっている。俺はベッドで横になりながら境内で戦った般若面のことや多悪霊荘の妖のことを考えていた。

 

「また、救えなかったな。霊魂が一度妖に転じれば輪廻転生の輪から外れて、討滅の後に待っているのは完全な消滅だけ。――くそっ!」


 例え妖を討滅したとしても、やるせなさだけが残る。いつもそうだ。俺たちの戦いは常に後手に回っていて犠牲が絶えない。

 この戦いはいつまで続くのだろうか。俺が生きている間は続くのか。それとも俺が死んだ後もずっと続いていくのだろうか?

 先代の退魔師たちも今の俺と同じことを考えながら亡くなっていったのだろうか?


『コン、コン』


 答えなど出るはずもないのに自問自答を繰り返していると、部屋のドアをノックする音が聞こえてくる。


「はい、どなたですか?」


「藻香だけど、少し話できる?」


 ノックの主は玉白だった。俺がドアを開けるとピンクのパジャマ姿の彼女が立っている。


「ここで立ち話もなんだし中へどうぞ」


「――うん」


 少し緊張した面持ちで彼女が部屋に入り、さっきまで俺が横になっていたベッドの端に座った。

 俺も彼女とは逆のベッドの端に座る。


「こんな夜中にどうしたんだ? 眠れないのか?」


「ええ、あれから色々考えちゃって。あなたや楪さんが守ってくれる事をありがたいと思う一方で、このままの生活を続けていていいのかなって。般若面の狙いが私なら、学校の皆も巻き込まれるかもしれない。そう思ったの」


 そういうことか。この玉白藻香という少女は俺が思っていたよりもずっと周囲に気を配る性格をしているらしい。

 普通、自分があんな怖い思いをしたのなら自分の身を第一に考えるはずだ。けれど、彼女は自分よりも身近にいる人々の安否を気にしている。

 そんな彼女に言うか言うまいか悩んでいたことを話すことにした。責任感の強い彼女には先に説明しておいた方がいいかもしれない。


「玉白、あの般若面のことなんだけど。もしかしたら、あいつは俺たちの学校の関係者かもしれない」


「えっ! どうして!?」


 彼女が目を見開き、信じられないという表情で俺に視線を向けた。

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