第19話 男女七歳にして席を同じうせず①
般若面の男による襲撃から玉白を守り抜き事なきを得たが、これで彼女が狙われている事がはっきりと分かった。
彼女に俺の任務について説明しているとクラシカルなメイド服姿の
その意外なコスチュームに玉白も俺も驚いたのだが、どうやらこれが楪さんの破魔装束であるらしい。
胸元が大きく開かれたデザインであるため非常に目のやり場に困る。こんな大胆なアレンジが施された破魔装束は初めて見たぞ。
こうして楪さんを伴って俺たちは玉白家へ戻り、俺の任務に関する詳しい説明を行った。それに合わせて楪さんが俺のサポートを行ってくれている事も説明した。
「――それじゃ、式守君たちは理由は分からないけど妖に襲われる私を護衛するという任務でここにいるのね」
「その通りだ」
思いつめた玉白が何かを決意したかのような表情になり口を開く。
「実は、私は――」
「言いたくない事は無理に言わなくてもいいよ。それにどういう事実があるにしろ俺が君を守る事には変わりない」
「でも、式守君も武藤先生もそれでいいの? ただ命令に従うだけで真実を知らずに戦う事に抵抗はないの?」
至極真っ当な意見だと思う。それは俺や楪さんも重々承知していることだ。
「ありがとう、玉白。優しいんだな。でも、俺も楪さんも自分たちで納得して任務に就いているから大丈夫だよ。それに、この任務は『六波羅』の局長である近藤総一郎の直々の命令なんだ。――総一郎じっちゃんからの指示なら俺は内容がどうあれ従うまでさ」
そこで以外にも吉乃さんが探るように俺に質問をぶつけてきた。
「『六波羅』の局長という事は全ての退魔師と陰陽師にとっての長と呼べる人でしょう? 話を聞いて思ったのだけれど、その方は燈火君たちと仲が良いのかしら?」
「じっちゃんは、局長とかそういう肩書なんて関係なく『六波羅』の皆にとって尊敬すべき人なんです。俺たち一人一人に愛情を注いで育ててくれた。だからこそ信頼できるんです」
「そう。そういう人なのね」
その時の吉乃さんは何かを懐かしむような嬉しそうな表情をしていた。なぜ彼女がそんな顔をしたのか、その真実を知るのはしばらく後になってからだ。
そして、ここで吉乃さんがこの任務の発端は自分にあると告白してくれた。
「実はね、『六波羅』に藻香の件をお願いしたのは私なのよ」
「ええ!? お婆ちゃんがどうして!?」
「それはあなた自身が一番理解しているはずよ、藻香。現に彼らはあなたに接触を図ってきたわ」
「そ、それは――」
事の真相を知っている二人だけで話が進んでいるため、俺と楪さんには内容が掴みづらかったが、どうやら今回俺が玉白を護衛する事になったのは吉乃さんによるもののようだ。
出会ってまだ一日も経過していないが、この玉白吉乃さんという女性もまた、じっちゃんと同じように信頼に値する人物だと思う。
そこからしても、この任務を請け負う価値は十分にあると思わされる。
「玉白、吉乃さんもこうして君のことを心配してその結果俺がここにいる。だから、君のお婆さんのためにも――そして、君自身のためにも俺に君を守らせてくれないか?」
「――え?」
俺がこの護衛任務に対する真剣さを玉白に伝えると、彼女の顔が見る見る赤くなっていくのが分かった。
「どうした、玉白? どこか調子が悪いのか? もしかして、あの妖術師に呪いでもかけられたのか?」
玉白は手で自分の顔を扇ぎながら俺から視線を外して、少したどたどしい喋り方で答えてくれた。
「呪いなんてかけられていないから大丈夫よ。それよりも妖術師って、あの般若面の男のことよね?」
「はい、そうです」
妖術師に関して俺に代わって楪さんが説明をしてくれた。こういう説明に関しては彼女の方が弁が立つのでお願いした。
「妖術師はその言葉通りに妖術や呪術を使う術者のことです。退魔師や陰陽師と対立し、妖と協力体制を結んでいる人間です。彼らは人間社会の秩序を崩壊させる事を目的としていて、独自に編み出した呪法によって妖を作り出すことが出来ます。近年では、その能力によって妖を大量に生み出し各地で散発的に集落を襲い人々の不安を煽ってきました。その結果、荒魂の力が増して、さらに妖が生み出されるという悪循環に陥っているんです。そのような点からも、あの妖術師は何としても止めなければならないんです。お分かりいただけたでしょうか?」
玉白と吉乃さんは深く頷いていた。俺も楪さんの隣で腕を前で組み、うんうん頷いていたが、内心では自分には彼女のように上手く説明は出来なかったと考え、心底彼女にお願いして良かったと思うのであった。
楪さんの説明により玉白は自分が置かれている状況を把握できたようだ。それを踏まえてか姿勢を正して俺と楪さんを正面に据える。
「私の状況はどうやら私が思っていた以上に危険なものになっていたみたいですね。――式守燈火さん、武藤楪さん、これからよろしくお願いします」
玉白と吉乃さんは一緒に俺たちに深々とお辞儀をした。彼女たちの信頼に応えるためにも俺は誠心誠意任務を全うする。
楪さんも俺を見て頷いている。
「こちらこそよろしくお願いします。玉白藻香さん、必ずあなたを守ってみせます。それに吉乃さんも」
こうして、俺たちは護衛対象である玉白藻香本人の意思の下、改めて任務に就くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます