第14話 ラッキースケベ VS 理性
「燈火くーん、お夕飯よー」
「はい、今行きます」
吉乃さんに呼ばれて居間に行くとテーブルに刺身の盛り合わせがどかんと置いてあり、寿司桶にはたっぷり酢飯が盛られている。
その近くには卵焼きと何枚にも重ねられた海苔の姿が目に入った。
「今日は新たな同居人をお祝いして手巻き寿司にしてみました。燈火君、たくさん食べてね」
「は、はい。ありがとうございます」
手厚い歓迎に感動していると、台所からピンク色のエプロンを身に付けた玉白が姿を現した。
エプロンにはデフォルメされた狐キャラのアップリケがワンポイントとして縫い付けられていて可愛らしい。
一見クールな雰囲気を漂わせている彼女がこんな可愛い系を好むとは意外だ。
俺のそんな考えが表情に出ていたらしく、玉白が怪訝な目で俺を見る。
「神妙な顔で人をじろじろ見てどうしたの?」
「大したことじゃないよ。ただ玉白って可愛い物が好きなんだって以外に思っただけ」
すると玉白の顔が急速に赤くなっていく。
「わ、悪い? いいでしょ、好きなんだから。くつろぎベアとか、ぷにパンダとか最高じゃない?」
あー、確かあのリラックスしきった熊のキャラとぽっちゃりしたパンダのキャラか。そう言えば『六波羅』の女子たちの間でも好きな人が結構いたな。
「俺はいいと思うよ。そういうキャラを見てると癒されるし」
その瞬間彼女の顔がぱあっと明るくなる。学校ではあまり表情は変わらなかったが、家ではころころと変化する。
「そうっ! そうなのよ! このゆるキャラたちは無限大の癒しを私に与えてくれるのよ!」
玉白は意気込みながら俺に近づいてくる。彼女の吐息が俺の頬を撫でるほどの距離まで接近してきたので、さすがに後ずさりしてしまう。
「はいはい、二人ともご飯にしましょう。藻香、あなたのゆるキャラ好きの話は後にしましょ。燈火君も困っているでしょ」
「えっ、あっ、ごめんなさい。私ったらつい熱くなっちゃって」
「夢中になれる物があるのは良い事だと俺は思うよ。俺にもそういうのあるし」
玉白は俺の趣味に興味を持った顔をしていたが、何はともあれ夕飯を食べることが最優先だ。
夕方まで買い物のために動き回っていたので、すごくお腹が空いた。目の前にある刺身の盛り合わせが宝石のようにきらきら輝いて見える。
「「「いただきます」」」
食べ盛りの高校生二名によってあれだけあった刺身や酢飯がどんどんなくなっていき、最終的には完食してしまった。
俺もかなり食べたが玉白も相当の量を食べたと思う。あの細い身体のどこにあれだけの量が収まったのか謎だ。
「さすが男の子ね、見ていて気持ちの良い食べっぷりだったわ」
「全部美味しくてたくさん食べちゃいました。この卵焼きもすごく美味しかったです」
俺が卵焼きを絶賛すると、吉乃さんが微笑みながら玉白の方を見た。俺も玉白に視線を向けると、彼女の顔が耳まで赤くなっているのに気が付く。
「あら、良かったわね~、藻香。燈火君、その卵焼きは藻香が作ったのよ。この子、割とお料理が得意なの。――どうかしら?」
その「どうかしら」とはどういう意味なのだろうか。ぐいぐい攻めて来るお婆様のアグレッシブさには脱帽だ。
「それじゃ、私は洗い物するから。式守君はゆっくりしてて」
顔を赤くしたまま玉白が使用済みの食器を持って逃げるように台所に向かって行く。そんな彼女の後姿を吉乃さんは笑顔で見ているのであった。
その後、少し休憩してから俺は一番風呂をいただいて居間でテレビを見ていた。すると風呂から出てきた玉白が姿を見せる。
金色の髪は少し濡れていて、白磁の肌は桜色に染まっている。ゆったりとしたピンク色のパジャマ姿がエロ可愛い。
エプロンの色もピンクだったので、もしかして玉白はピンク色が好きなのかもしれない。
「何か面白い番組やってる?」
玉白が前のめりになってテレビ番組を確認していく。ふと彼女を見ると、ゆったり目の衣類のためか彼女の胸の谷間が丸見えになっていた。
「なぬ!?」
それは実に立派な谷間だった。こんな凄いボリュームのものを今まで見た記憶はない。つい視線が釘付けになってしまうが、ここで俺は我に返る。
もしかしたら、これは罠ではないだろうか。彼女は俺に何度もエロい行動をするなと言っていた。
もしもこの状況において彼女の谷間を見続けていたら確実にスケベ男のレッテルが貼られるだろう。
それを回避するため、俺に出来るのは彼女から視線を外すことだけだ。
俺も年頃の男なので、あの立派な谷間を見たいという強い欲求に襲われるが、心を鬼にして泣く泣く見ないようにする。
俺がわざとらしく明後日の方向を見ている事に気が付いた玉白が「どうしたの」と俺に訊いてくるが、事実を言ったら俺は間違いなくエッチ呼ばわりされるだろう。
そんな俺と玉白のやり取りを見ていた吉乃さんが「あらあら、まあまあ」と言って、自分の孫の行動を
「藻香、ちょっと無防備すぎですよ。燈火君が困っているじゃないの」
「それってどういうこと?」
吉乃さんが自身の胸の辺りを指し示すと、ここで玉白は自分の胸元が露わになっている事に気が付いた。
「あわわわ! 式守君、今の――見た?」
「少しだけ。でもすぐに視線を外したからほとんど見ていないよ。だから、俺はスケベではない!」
「ご、ごめん! 私、外の空気を吸ってくるね」
自分の無防備な行動を恥じた玉白の顔が桜色から赤へとみるみる変わっていき、彼女は玄関から外へ出て行った。
居間にいるのが俺と吉乃さんだけになると、彼女の表情が今までとは打って変わって真剣なものへと変わる。
「燈火君、少し真面目な話をしていいかしら? ――単刀直入に訊きます。あなたがこの街に来たのは親御さんの仕事の都合ではないわね?」
「…………」
いきなり俺の任務内容に触れる事を言ってきたため、何と話せばいいのか分からず黙っていると、神社の外から近づく邪悪な気配に気が付く。
「これは……妖力! ――玉白!!」
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