第13話 吉乃の提案
「燈火君、上がって頂戴。今お茶を入れますから藻香と一緒に居間でくつろいでいてね」
「お邪魔します」
「式守君、こっちよ。付いて来て」
何がどうしてこうなったのだろうか。住居が燃えてショックを受けていたら、いつの間にか護衛対象の家に招かれていた。
居間にはこたつが置かれていて、玉白がその電源を入れている。
「すぐに暖かくなるから、こたつに入っていて。私は着替えてくるから」
そう言い残し彼女は奥の方に消えて行った。俺はイレギュラーな状況に戸惑いつつ、ほのかに暖かくなり始めたこたつに足を入れて状況整理をすることにした。
こたつの中は時間経過に従って少しずつ暖かくなるが、俺の今後はどうしても
「はい、燈火君。おせんべいもありますから遠慮なく食べてね」
考え込んでいる俺の目の前に緑茶が入った湯のみと大量のせんべいが置かれる。吉乃さんもこたつに入って緑茶を飲み始めた。
「ありがとうございます。いただきます」
俺もお茶を飲んだ。寒空の下で冷えた身体が内側から暖められ心地いい。吉乃さんと二人でせんべいを食べながらお茶を飲んでいると着替えが終わった玉白が戻って来た。
上はTシャツで下はスカートというラフな服装だ。
「――式守君、随分と馴染んでるわね」
玉白はこたつに入りながら半笑いで俺を見ていたが、すぐにお茶とせんべいに意識が向かい吉乃さんと話し始める。
とにかく少し落ち着いたらお暇して『中崎陰陽退魔塾』で住居の件をどうにかしよう。
俺がこれからのスケジュールを整理していると、吉乃さんが俺の名前を呼んでいるのに気が付いた。
「燈火君、さっきの話だけれど、この辺りで住まいを探しているのよね。――でも、残念だけどそう言った物件は私の知る限りないわねぇ」
「そう……ですか」
昔からこの地で生まれ育ったであろう吉乃さんがいうのだから間違いないのだろう。この瞬間に、これから先に待ち受ける俺のキャンプ生活が決定した。
だが、次に吉乃さんが口にしたのは驚くべき内容だった。
「もし燈火君やご両親がいいのであれば、この家に居候してみない? 使っていない部屋もあるし大歓迎よ」
「「――え?」」
俺と玉白が同時に声を上げる。そこから数秒の沈黙の後に彼女は仰天しながら祖母の正気を疑うのであった。
「ちょ、お婆ちゃん頭大丈夫!?」
「失礼ね、藻香。私は正気かつ本気ですよ」
「だって、さっき会ったばかりの男の人を家に居候させるとか普通じゃないわよ。それに――」
「それに、どうしたの?」
玉白が頬を赤らめて俺をチラ見しながら言う。
「式守君――エッチだし」
俺は何も言えなかった。確かに年相応に異性に興味津々なのは否定できない。せっかくだが吉乃さんの提案はお断りしよう。
「何を言っているの、藻香。燈火君ぐらいの年齢の男の子だったらエッチなのは当たり前ですよ。ねえ、燈火君?」
「!? ごほっ、ごほっ、げほっ!」
清楚なご婦人による予想外の言葉に驚いて、お茶が変なとこに入ってしまった。
何とも答えづらい内容を俺に振って来た。このお婆さん、結構ぶっ飛んだ性格をしているかもしれない。
俺が口ごもっていると玉白が吉乃さんの意見に異を唱える。
「それってますます危険な状況でしょ? 間違いが起こったらどうするの?」
吉乃さんはお茶をずずっとすするとゆっくりと湯のみをテーブルに置いた。
「その時は――その時よ」
「「………………」」
その悟りを開いたような表情を前にして俺と玉白は何も言えなかった。どうやら吉乃さんは意外に相当頑固らしく、彼女が決定した事は覆らないらしい。
そのため、玉白は既にこの件に関してどうこう言うのは諦めている様子だ。
俺もそれにならって素直に吉乃さんのご厚意に甘える事にした。
「よろしくお願いします」
「自分の家だと思って遠慮なく過ごしてね。やっぱり家に男性がいると安心するわねぇ」
にこにこ顔の吉乃さんの横で玉白はジト目で俺を見ながら釘をさす。
「私は不安しか感じないけどね。――お婆ちゃんの決定だから居候の件は許したけど、この家でスケベなことしたら怒るからね」
「――君は俺を野獣かなんかと勘違いしてないか? それに何気にスケベにランクアップしてるし」
それからの吉乃さんの行動は早かった。各種連絡先に許可を取り、俺の服などを買い揃えて夕方になる頃には俺は与えられた部屋でくつろいでいた。
部屋は八畳の広さの和室で実に居心地が良い。ラップ現象が常に発生していた
昨晩はほとんど眠っていなかったので、ついうとうとしてしまう。
俺も『六波羅』に連絡を入れたのだが、以外にも今回の居候の件に対して問題ないという事になり、この状況で任務続行となった。
まさか護衛対象の家に転がり込む事態になるとは思わなかったが、結果的に任務は格段にやりやすくなったと言えるだろう。
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