第12話 さらば多悪霊荘
玉白の家までは、ここからそんなに離れていない。とにかく、その間何とかやり過ごせば問題ない。
下手に喋ると自滅しかねないのでここはだんまりを決め込もう、そうしよう。
「そう言えば、式守君ってご家族で引っ越してきたのよね? この辺りでそんな物件あったの? 私の知る限りじゃ、この辺りって一軒家ばかりで家族で住めそうな所は無かったと思うんだけど」
あかん! いきなり答えづらいとこ突っ込まれた。他のクラスメイトはここまで聞いてこなかった。さすがは地元民と言うべきか――。
「え、あー、実はね家族とは離れて暮らしてるんだ。親の職場はここから離れているから、別の街に住んでて俺は学校が近いこの辺りにアパートを借りたんだよ」
――凄くね、俺。咄嗟に思いついた話だが、違和感がない。春水も称賛するぐらいのベストな回答だ。もうこれ以上突っ込む要素はないだろう、玉白さんよ。
俺が内心自画自賛で打ち震えていると、玉白が急に立ち止まった。表情が少し暗くなっているようだが気のせいだろうか?
すると、彼女が恐る恐る口を開く。
「間違ってたらごめんなさい。もしかして、式守君が一人暮らししているアパートって、
――――オワタ。そう言えばこの辺りにあるアパートってあそこだけだった。
何がベストな回答だ。穴だらけのぐだぐだな発想じゃないか。住んでいる所がばれて早々に詰んだぞ。
俺が自身を恥ずかしく思っていると、彼女が心配そうに俺を見つめているのに気が付く。
「式守君、あなた大丈夫? こんな事言うのも何だけど、あのアパートってこの辺りじゃ有名な心霊スポットなのよ! 昔、テレビの取材で除霊に来た霊能力者が裸足で逃げ出すような悪霊の巣窟なの。一般人でも近づいたら気分が悪くなるし、下手したら呪われてどうなるか――」
彼女は本気で心配していた。地元の人がここまで危険視する住居に住まわせるなんて、今更ながら『六波羅』の上の連中の正気を疑ってしまう。
この任務が終わったら、本気で転職を考えようかな。
「だ、大丈夫だよ。確かにテレビは勝手に点いたり、ラップ現象があったりしたけど、今の所問題ないよ」
「十分問題あるレベルじゃない、それ! 今からでも新しいアパート探した方がいいよ。呪われてからじゃ遅いのよ!?」
彼女の言う事はごもっともだ。もしも『六波羅』に彼女と同じ真っ当な考えを持っている人物がいたら、こんな面倒な事態には陥っていなかっただろう。
どうせ、俺ならいざとなれば討滅できるし何とかなるとか適当に考えていたんでしょうよ。
彼女の優しさに感動しつつ返答に困っていると、前方から大規模な煙が立ちのぼっているのが見えた。
「何だあの煙は? それにサイレンの音もするし。――まさか!!」
嫌な予感がして急ぎ足で現場に向かってみると、人だかりが出来ていた。その間に割り込んで前の方に進むと、その先には激しく燃え盛る多悪霊荘の姿があった。
「あ……ああ……俺のアパートが……燃えてる……まじかぁ、あれだけ頑張って除霊したのに。あの努力は何だったんだ……」
それだけじゃない。アパートに置いてあった俺の荷物全部が燃えている。なんかもう笑うしかない。
「あは……あはは……さすが木造建築……良く燃えるわぁ……はははは」
身体から力が抜けて肩にかけていたカバンが地面に落っこちる。近くでは近所のおばさま方がひそひそ話をしていた。
「怖いわねぇ。不審火ですってよ」
「確かあのアパートってお化け屋敷で有名なとこでしょ? それなら燃えて丁度良かったんじゃないの?」
他にも多悪霊荘が燃えて肯定的な意見がちらほら聞こえてくる。関係ない人にしてみればそうだろうが、俺にとっては一晩だったとは言え自分の城だったんだ。
そのマイキャッスルが俺の目の前で炎上し、音を立てて崩れていく。アパートに取り憑いていた地縛霊どもは住処を失ってあの世にいったのだろうか?
連中の気配は感じないから、成仏したんだろきっと。
それはともかく家はどうしよう。任務の都合上、玉白神社から離れるわけにはいかないから、この近くにテントでも張って野宿生活になるかな?
まだ四月だし夜は冷えるなぁ。世知辛いわー。
「式守君、大丈夫?」
任務早々に暗礁に乗り上げお先真っ暗になっている俺に誰かが声を掛けてきた。その人物は玉白藻香だった。
「玉白さん、帰ってなかったの?」
「うん。だって、アパート燃えちゃってるし式守君はショックで放心状態になってるしで放って帰れないでしょ? それよりもご両親に連絡とかしなくて大丈夫なの?」
「そ、そうだね。連絡してみようかな」
俺は『六波羅陰陽退魔塾』局長の総一郎のじっちゃんに連絡を取ることにした。
だが、ずーっと留守電になっており電話に出る気配が一向にない。恐らく、アパートがお化け屋敷だったことで俺が文句の電話を掛けていると思ったのだろう。
経験上、しばらく俺からの電話に出る事はあるまい。
「どうだった? 親御さんと連絡取れた?」
「駄目だった。ずっと留守電。――まあ、何とかなるさ。この辺りで一人暮らし出来る物件がないか不動産屋に訊いてみるよ。それじゃ」
同情の面持ちを見せる玉白に別れを告げてその場を離れようとした時、年齢が四十代くらいの和服姿の綺麗な女性が近づいて来た。
「やっぱりここにいたのね、藻香」
「あ、お婆ちゃん!」
「お婆ちゃん!? 玉白さんの?」
もしかしたら今日一日でもっとも衝撃的な一言だったかもしれない。玉白の祖母である玉白吉乃の年齢は確か五十六歳だったはず。
だが、そこにいる和服姿の女性はどう見ても四十代前半くらいの女性に見える。
薄茶色の髪は後ろでお団子状にまとめられていて、肌は孫と同様に雪のように白くつやつやしている。とてもじゃないがお婆ちゃんという感じではない。
俺が混乱している事に気が付いたのか、玉白の祖母――玉白吉乃がたおやかな笑顔で俺たちの方にやって来た。
「こんにちは。私は藻香の祖母の吉乃と言います。あなたは藻香のお友達?」
「は、はあ。俺は式守燈火と言います。今日、彼女のクラスに転校してきました。藻香さんには色々親切にしていただいています」
「あら、そうなのね。孫共々よろしくお願いしますね。それにしてもアパートが燃えちゃって驚いたわねぇ。噂じゃ不審火やら放火やら言われているけど――あら、燈火君どうかしたの? 顔が青いけど」
「実はね、お婆ちゃん――」
玉白は祖母の吉乃さんに事情を説明した。すると吉乃さんは俺を連れて玉白家へ戻るのであった。
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