ハプニング
私は今、男の家にいる。
それも、顔を合わせて一日も経過していない男の。
それに、他の家族の方もいないようで。
さらにさらに、私の姿は一糸まとわぬ、生まれてきたまま状態になってしまっている!
家についてすぐ、先に風呂に入ってくれと彼に提案された。
いつもの私なら、「私の残り湯を堪能したいわけ?」なんて難癖をつけていたけど、流石にそんな余裕はなく、着替えの有無やタオルの場所、洗濯物の詳細などを聞いてから、素直に浴室へと向かった。
その際に、彼氏の家に泊まりにきたカップルみたいなんて思ってしまったのは、私の心にとどめておこう。
そんなこんなで、現在。
浴室の前で、入浴の準備をしてしまっている。
「はぁ............なんでこんなことになっちゃうかなぁ」
男子高校生と二人きり同じ屋根の下......何も起きないはずが......
って、何を考えてるの私!冷静になれ!
とりあえず、早くお風呂に入って服を着よう!
裸だから変な妄想をしてしまったんだ。きっと!
私は急いで入浴の準備を進める。
「............あれ?」
彼に教わったタオルの棚は、すべてフェイスタオルで埋め尽くされていた。
バスタオルがない............
まぁ、仕方ない。他人の家にはその人なりの生活様式があるのだ。それにいきなり押しかけておいて、文句は言えない。
私は、数枚のフェイスタオルも持って浴室の扉を開ける。
その瞬間、凄まじい熱気が身を包んだ。まるでサウナだ。
浴槽温度を見ると、47度。私は普段、40度で設定しているので、7度差ということになる。
............まぁ、人には人の生活スタイルがある。後で、相談すればいいだけ。仕方ない。
そうだ!浴槽に浸かることはさっさと諦めて、疲れ切った心身を汚れと一緒に洗い流そう!いままでの、不満もついでに水に流そう!
......................................................
コンディショナーがない............
私の中で、何かがぷつんと切れた。
私の頭は、この浴室のように燃え上がり、完全にオーバーヒートした。
「なんでコンディショナーがないのよ!」
キッチンで呑気に鼻歌を歌っていた彼に言い放った。
「はぁ!?コンディショナー?なんだそれ?」
彼は、フライパンに苦い顔を浮かべながら答えた。
「リンスよ!リンス!」」
「あぁ、リンスか。でも俺、短髪だから必要ない......ってお前!ななな、なんて格好してんだ!」
やっと、フライパンとのにらめっこが終了したと思えば、今度は顔を真っ赤にしている。
「は?何言ってんの?............っっっっっっ!」
声にならない叫び声とはこのこと。羞恥で顔が火照るのが自分でもわかる。
まずい、まずい、まずい、まずい
フェイスタオル二枚。つまり上半身一枚。下半身一枚。
それが私を守ってくれるすべてだった。
最低限、隠さないといけない部分は隠れているけど最低限過ぎるよ!
私は彼からの視線を察知し、睨らんだ。
「じろじろ見んな!バカ!」
その瞬間、彼の切れ長の目の視線とぶつかった。
「バカ!おま、お前こそなんでこっち見るんだ!」
『......デカい.......』
「.....................」
「.....................」
『歯...食いしばろっか!』
「.........はい」
彼は何かを察したようで仏のように穏やかな表情で目を伏している。
私は右手を大きく振りかぶる。
.........パチン!!!
すがすがしいほどの音がキッチンに鳴り響いた。
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