本当のはじまり
目的地に到着した頃、俺のHPは虫の息となっていた。
ここに着くまで、約三十分。その間、美少女と二人きりという一見、ご褒美のようなイベントだが現実はそう甘くない。いや、この女は甘くない。
隙あらば、揶揄。嫌味。悪口。胃に穴が開きそうだ。
「はぁ、やっと着いた......」
「え?君の家ってここ?」
独り言のつもりだったのだが、聞こえていたみたいだ。
彼女は、あたりをきょろきょろと見回している。
「ああ。まぁそんな感じ」
俺はその建物に近づいていく。すると、ウィーンという軽い機械音とともに、扉が開く。
「おー、お帰りー」
出迎えてくれたのは、ここの先生。この場合は医師の方がいいのだろうか。
汚れ一つ許さないような白衣を身に纏い、その白衣とは対照的な淡く茶色がかったのサングラスをかけている。
「相変わらず、人いねえのな。そろそろ潰れるんじゃないか?」
いくつか椅子があるものの、そこに座っているのは、ただ一人。
伸びきった黒髪を無秩序になびかせながら、深く腰掛けている。
「まずは、ただいま、だろ......ったく口の減らないやつだな。それに、あんたが夕方空けとけって言ったんじゃん」
そうだった、と内心は思い、話を本題へと運ぶ。
「紹介したい奴がいるんだ。ほら。」
彼女は困惑しながらも、俺の意図を汲み取ったようで、
「成上くんと同級生の天霧空です。ええっと......」
この状況を説明しろ、と言わんばかりに俺を睨んでくる。
「えっと、この人は...」
「私は足立栞。この眼鏡バカの姉みたいなもんだ。ついでに医者もやってる。」
なぜ自己紹介のはずなのに、俺が貶されているのだ。
「栞ちゃんだって、バカみたいなサングラスかけてるだろ」
彼女は驚いた様子でこっちを見てくる。
『え、自分の姉にちゃんずけでよんでるの?成上くんシスコン?』
なぜ、俺はほんの数秒でこんな悪口を浴びているのだ。
まぁ、俺も少しは非があるが。
放っておくと、二人の声(主に俺の悪口)が止まらなさそうなので、おれはいきなり本題をぶち込む。
「今朝、サングラスをかけたおっさん共に襲われた。恐らく、狙いは俺だが。もう一つの可能性もある。」
覇気のない栞ちゃんの顔つきが、一瞬にしてシリアスなものに変わる。
続けて、といった様子で腕を組んでいる。
「もう一つの可能性は、こいつだ。」
俺は隣にいる彼女を指さす。
彼女はいまいち状況が掴めていないようで、困惑した表情を浮かべている。
「現場にはこいつがいた。こいつは、俺と同じ。心を読む能力を持っている。あとは理解できるだろう」
栞ちゃんは、深刻そうな表情で頷く。
「つまり......」
小さな待合室の中に沈黙が訪れる。
「つまり!危ないところを新が助けて、それからラブコメ的展開に突入して、最終的に私に挨拶に来たって訳だ。結婚するための許可をもらうために。」
さっきとは別の意味で、沈黙が流れる。
「「......は?」」
「勿論、私はOKだ。むしろこんなバカを天霧さんが貰ってくれるなんて......私はうれしい限りだよ」
「あっ、そうだ。いま新一人暮らしなんだからさ、一緒に住んだら?あの家に一人はもったいないって」
早口で捲し立てる栞ちゃんに俺は大きくため息をついた。
俺たちをからかいたいのか困らせたいのか...
何を言っているんだ。この人は...
おそらく、隣にいる彼女は深く青ざめた表情をしているだろう。
そろそろ、とんでもない嫌味が飛んでくるんじゃ!?
いや、此処は冷静に否定するパターンか?なんてことを考えていると......
「は!?こんな人と結婚とか無理!ガサツだし、口数少ないし、そのくせ口を開けば、嫌味ばっかだし!」
あれ?
言葉は依然として鋭いものだったが、なぜか、顔を真っ赤にして必死に言葉を紡いでいる。こんなの彼女は、初めて見た。まぁ今日会ったばっかりなんだが。
「全部説明不足だし!学校で急に家来いとか言い始めるし。
そりゃ、顔はちょっとタイプだったけど.........」
んん!?
俺は心の中で唸った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます