第18話 『付与術師VS大賢者』
わぁぁぁ!
すっごく綺麗な海っ!
古城エリアを抜けて、辿り着いたのは陽光に反射された青い海が、宝石のように煌めく海辺のエリアだった。
よく目を凝らすと砂浜の中に貝殻が混じっていて、かなりリアルに作り込まれていることに驚いた。
「でもこんなに綺麗な場所なのに、人が誰もいないなんて……」
もしかすると、激しい戦闘の後なのかな。
そうだとしたら、誰もいないし……ちょっとくらい水浴びしてもいいよね?
近くの砂浜にあからさまな形で置かれていた宝箱を開けてみると、中から水着装備一式とカラフルな白と赤の浮き輪が出てきた。
水着はシンプルな黒色のビキニ。
普段あまり黒を身に付けることがないので、新鮮に感じてしまう。
「これを着たら私のステータス値でも、海の中にも入れるのかな?」
正直初心者装備でも水着でも耐久性は変わらないので、着替えてみることにした。
腰回りは……うん、大丈夫そう。
胸の方はぴったり……とはいかないよね。
ちょっときついし、カップに収まってないけど。
……まぁ誰かに見られる訳でもないし、大丈夫だよね!
戦闘の疲れを一時的に癒すべく、幼児のようにはしゃぎながら浮き輪の上に仰向けで寝転び、水の中に身体を沈めた。
真っ青な空に、ソフトクリームのように美味しそうな白い雲。そして優しく包まれているかのような、陽光の暖かさを感じながら、瞳を閉じて波に身体を委ねる。
このまま寝ちゃいそう……。
うーん……むにゃ……。
………。
………。
———あれ……声が聞こえるような……。
「——もしもーし! 聞こえてます?」
夢見心地で目を閉じていた私に向けて、どうやら砂浜の方から声をかけてきているプレイヤーがいるようだった。
「ふぇ……ふぁいっ!!」
わわっ……!
あ、女の人で良かった!
さすがに男の人に水着見られるのは恥ずかしいし……。
私の存在に気付いて不意打ちをかけて攻撃をすることなく、声をかけてくれたところを見ると優しいプレイヤーなのかもしれない。
そう思い、挨拶だけでもしておこうと浮き輪から身を乗り出した。
あれ……足攣った?!
長時間の緊張と疲労を体験し、急に安らぎと安心感を得たからか、足に激痛が走りそのまま海の中に落ちてしまった。
「あぶ……あぶぶっ………おぼれ……」
身体が沈んでいく様子はないが、必死に溺れまいと手をバタバタさせる。
「ちょっと、早くッ! これに捕まりなさい!」
いつの間にか声をかけてくれていた女の人は、水の中に来てくれており、私を砂浜まで引っ張り上げてくれた。
「ハァハァハァ……ゲホッ……。ありがとう……ございます」
「本当に何してるのよ。あんな何もない所で、溺れるなんて信じられませんわ」
そう話してくれる女の人は、同じように黒色のビキニに着替えてくれたようで、ピンク色のボブヘアーに可愛い赤いお花の髪飾りを付けた少女だった。
「え……嘘っ。その頭のって……」
そう……私が驚きのあまりそう口に出してしまったのは、その少女の頭上に王冠のマークが浮かんでいたからだった。
「今更気付きましたのね。私が貴女を助けたのは、貴女の持つポイントを私のモノにするためですわ」
ものすごくベテランそうな人だし……。
命の恩人とも思える人とは、戦いたくないなぁ。
内心そう感じてしまっていたが、ピンク髪の少女はやる気満々らしい。
「ここで正式に、一騎打ちを申し込みますわ」
その一言を聞き、無意識に身構えてしまう。
ピンク髪の少女は一瞬で装備を切り替え、魔法少女的な衣装に着替えた。
装備している杖は、見た目だけで明らかに超レアな武器であるのことが分かる。
こ、これが本当に私と同じプレイヤーなの?!
まるでお兄ちゃん……みたい。
装備を切り替えた途端に放たれる圧倒的な迫力は、本当にお兄ちゃんを目の当たりにしているようだった。
「ちなみに、ここの海辺に全然人がいないこと……疑問に思わなかったかしら?」
「それは思いましたけど……」
激しい戦闘があった後なのかもって……。
え……まさかっ。
「ここにはとんでもなく強いボスモンスターが出現してね、ポイントをかなり溜め込んでたのですわ。当然倒そうとするプレイヤーも、大勢いたわ」
「もしかして、あなたがモンスターもプレイヤーも全滅させたんですか?」
「そういうことよ。大規模集団戦闘を経験しているのは貴女だけではないのよ——【
それって古城エリアでの戦闘のこと?!
見られてた?
……ううん。職業も名前も知られてるし、きっと分析されてたんだ。
本格的に狙ってきたという事実が分かり、私も覚悟を決めて水着から初心者装備に切り替え、右手に魔法剣を握った。
「ふふ、それでいいのよ。【大賢者】であり、レベル1560の『魔法少女☆リコピン』が全力で貴女を倒すわ! ——目標のナイトロードさんに近付くために!」
「……えっ?」
えっ……お兄ちゃんに……近付く?
何言ってるの?
お兄ちゃんは、私のだもん!
取られたくない、やだやだっ!!
『レベル1560』と『目標の』という肝心な部分をすっかり聞き逃した私は、降りかかる火の粉を払うべくリコピンさんと対峙した。
「フッ。私の迫力に怖気付くことなく立ち向かってくるなんてね。貴女には敬意を表して、最強にして最凶のスキルで終わらせてあげますわ」
ど、どうしよう? まずは様子見で……。
でもこの人は【大賢者】って言ってたから、魔法系統の職業のはず。
詠唱時間内に攻撃するのが妥当だよね
そう考えて、リコピンさんの元に近付くべく地面を蹴って駆け出した。
「魔法職が相手だとそうするわよね? でも残念ですわね——《詠唱破棄》《魔力増強Ⅲ》」
そ、そんな!
詠唱を無しにできるのっ?!
それに魔力増強ってことは……火力UP?!
完璧すぎる組み合わせに不意を突かれた私に対し、全てを終わらせるためのスキルが放たれる。
「これでさようなら。オリジナルスキル——《
リコピンさんが《
こんなのあり得ないよ……。
海が……こんなに広い海がッ……全部凍結?!
数分前まで穏やかな波で心地良かった海が、全て凍り付いてしまっていた。
それはさながら南国から北極への、瞬間的な移動を体感させられたかのよう。
更には、直接的な攻撃を受けた訳でもないのに、私のHP残量が気候の変動に耐えきれず、ものすごい勢いで削られていく。
「《
「そ……そんなっ!」
ここで倒されちゃったら……お兄ちゃんが。
私のお兄ちゃんが盗られちゃうッ!
HPゲージが一定値を割り込んだため、HPを全回復させる《ライフリカバリー》が自動的に使用される。
「へぇ、そこから回復なんてさすがですわね。でも《
リコピンさんが話す通り、状況はさっきまでと変わらずHPだけが一方的に削られていく。
こんな所で……やられるわけにいかないもん。
……私のお兄ちゃんだもん!
絶対に誰にも渡さないんだからッ!!!
——ピコンッ!
———————————————————————
『一定時間内でのダメージ総量が異常値に達しました』
『新しいスキルを会得しました』
『オリジナルスキル《
☆ 《
⇒【ルミナ専用スキル】
⇒自身に絶対不死属性を付与する。
⇒即死効果及び貫通攻撃によるダメージも無効化する。
⇒受けたダメージ分のHPを回復する。また最大HP以上のダメージを受けた場合は、最大HPに超過して回復を付与させる。
⇒効果時間10秒
⇒スキル使用回数10回 / 1日———————————————————————
「《
ポップアップされた効果内容を読む余裕もなく、ただひたすら新しく会得できたスキルを夢中で叫んだ。
「な……何なんですの?! ……貴女のそのHPゲージ!!」
減少し続けていたはずHPゲージは、いつの間にか際限なく増え続け、画面から完全に見切れてしまっていた。
———————————————————————
ルミナ[レベル25]
HP:38540 / 600———————————————————————
よかったぁ。
HPが最大値よりも回復してるけど……。
……どうしてなの?!
理由は分からないままに、窮地を脱することが出来たため安心する私とは真逆に、さすがのリコピンさんもこの異常事態に焦りを感じたらしい。
「くっ……ありえないことが起こってますわね。それなら別の魔法で確実に!」
「もう好き勝手はさせませんっ! ——《ムーブポイント》」
私は一瞬でリコピンさんの背後に移動した。
「消えた?! 一体どこにっ———」
周囲を警戒するリコピンさん。
その間に念のために《ドラゴンフォース》を使用し、攻撃力を2倍にしておく。
「まさか……後ろにっ?!」
「リコピンさん……。お兄ちゃんの1番近くは私の場所なんで、絶対に譲れませんッ!!」
「え? はい? ……一体な、なんのはなしぃぃぃぃぃぃぃ…………」
凍てついた海の方に身体を向けていたリコピンさんの背後から、高速で魔法剣を前に突き出した。
その突きはリコピンさんの身体に風穴をあけるだけでなく、地に広がる氷海と天に広がる黒雲の水平線までの距離で、完全に真っ二つに亀裂を入れて割ってしまった。
「海も空も割ってしまうなんて、次元がおかしいですわよ。さ、さすが最強のスキルですわね……。私としてはかなり……悔し……いですわ……」
「えっと……その、リコピンさん。今のはスキルではなくて、ただ剣を前に突き出しただけです……」
「ふぇ?! ……はぁぁぁぁぁぁ????」
リコピンさんは最後にそう言い残すと、HP全損者の一時待機場所に転送されてしまった。
———————————————————————
『ランキング2位のプレイヤーを倒しました』
『海辺エリアのシークレットボスを倒しました』
『天空エリアのシークレットボスを倒しました』
『現在の獲得ポイントは—————です』———————————————————————
「ふぁぁぁ。つ、つかれたぁ。一時は本当にどうなるかと思ったけど……ギリギリ何とか勝てたぁ」
お兄ちゃん以外にも、あんなにすごいプレイヤーがいるなんて世界はまだまだ広いなぁ。
それにしても、獲得ポイントの表示がされてないけど何かのバグかなぁ。
私の獲得ポイントが分からないよ……。
割られた雲の切れ間から差し込む、陽光を浴びながら先程会得した《
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